辺境の反撃が社会を変える。(3)
〜リニア新幹線建設と水量減少問題


リニア新幹線建設と水量減少問題

 同じことは静岡県でも起きている。同県はJR東海とリニア中央新幹線の建設を巡って対立しているのだ。といっても静岡県内にリニア中央新幹線の停車駅建設の予定はないし、リニアの新駅を開設しろと言っているのではない。そもそもリニア新幹線が通るのは都市部ではなく北部の山奥である。しかも、わずか11kmの距離。
 ところが、そこは同県の水源地帯、南アルプス。そこにトンネルを掘ってリニアを通す計画だから、当初から騒音や新駅設置とは別の問題が想定された。トンネル工事に付きものの湧水と河川等の水量変化や自然環境への影響の問題である。

 静岡県としては大井川水系への影響は看過できない。同県人口の6分の1、約62万人が大井川水系の水に依存しているからで、水量が減少すれば途端に市民生活に影響が出る。そのため県は早い段階からそのことを危惧し、JR東海に対策を要請していた。
 リニアのトンネル工事完成後に大井川の水量は毎秒2トン減少する。2013年9月に公開された「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価準備書」にはそう記されている。毎秒2トンの水量減少は大きい。それも毎秒2トンで留まればいいが、毎秒3トンになるか4トンになるか本当のところは工事完了後まで分からない。
 JR東海側は「工事中の湧水は汲み上げて大井川に戻す」とか、「工事完了後も流量の観測を行い、利水関係者の話を聞いて恒久対策を実施」するとしたものの、同社の計画ではトンネル工事中の湧水は導水路を建設して毎秒1.33トンを大井川に戻し、残り0.7トンもポンプアップで戻すとした。
 これに県が反発した。上限を2トンとしているからで、それ以上の水量減少になった場合でも2トンしか補充されないことになる。さらに県との合意がないままに導水路の建設に着手したことが県のJR東海に対する不信感を一層募らせている。
 JR東海のやり方は中央権力そのもので、JR東海を日本政府に、静岡県を沖縄県に置き換えれば普天間移設問題と重なって見えてくる。

 かつて地方は「大多数を助けるために」という名目の下に犠牲を強いられてきた。それは助ける順番を先に譲っただけで、その次は自分たちが助かる番だと思っていたからだが、いつまで待ってもその順番が回ってこない。それどころか、地方は中央に不都合を押し付けられるだけの都合のいい存在ではないかと気付いてきた。
 これは中央政府が口にするフェアではなく、著しいアンフェアであり、そうした関係はおかしい。地方は切り捨てられる存在、黙って従うだけの存在ではない、と反撃し始めたのが佐賀であり静岡県だった。彼らが上げた反撃の狼煙は同時多発的に辺境のあちこちで上がり、燃え上がろうとしている。

辺境からの反撃が政治を変える

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