不二家が消費・賞味期限切れの原料を使用していた問題が各方面に広がりを見せている。小売り各店舗は不二家商品の店頭からの撤去を次々に始めた。2月のバレンタインセールを目前にした全面撤去だけに、不二家の経営に与える影響は致命傷になりそうな様相を呈してきた。このままいけば雪印の二の舞になるのはほぼ間違いないだろう。
ただ、今回の一件は不二家だけの問題ではない。
例えば最近、突然5時前から弁当に割り引きシールを張り出した24時間営業スーパーや、客に残り物ビールを出していた中華レストランなど、食を取り扱う業界は波及を恐れ、戦々恐々としている。
食の安全・安心は単なる神話に過ぎなかった。そう思える事象が相次いでいるのだ。雪印乳業は現在考えられる最も合理的な衛生管理法であるといわれるHACCP(ハサップ)の承認工場だったし、不二家は品質保証に関するISO9001を取得していた。HACCPやISO認定工場ですらこれだから、一体何を信じていいのか分からなくなる。
さらに問題はこれらの認定をした民間認定機関の認定の仕方である。まさに耐震構造設計疑惑の時と同じである。
日本人は問題を起こした企業をまるで生け贄にするように寄ってたかって叩くが、どこかを生け贄にすればそれで済む問題ではない。むしろその背景にあるコスト優先意識による安全の犠牲、それを強いる企業体質、いや業界体質といった方がいいだろうが、それこそが問題だろう。
そして似たようなことは我々の身近でいくらでも起きているのである。交通違反と同じように「見つからなければそれでいい」と思っているのではないだろうか。そこで次の2つのケースを見てみよう。
24時間営業は消費者のため?
現代人の生活が夜型に移行するにつれ24時間営業の店が増えている。特に最近目立つのが食品中心スーパーに長時間営業、24時間営業が増えていることだ。
24時間営業していると一見とても便利に感じる。「開いててよかった」というコンビニのコマーシャルが昔あったが、何時でも時間を気にせず買い物に行けるのはたしかに便利な気がする。
では、実際にどれくらいの人が夜中に買い物に行っているかというと、その数はそれほど多くないだろう。逆に24時間営業にすることによって、人件費、光熱費などの負担が増える。にもかかわらず24時間営業にするのはなぜか。
1つには「消費者ニーズへの対応」という魔物のせいである。
この魔物は恐ろしい力を持っていて、その要望に応えているとどんどん贅肉がついていき、やがては何がなにやら訳分からなくなり死に至るのである。
「もっと機能を付けろ」
「もっと品揃えをしろ」
「見た目がきれいな野菜を売れ」
「有機栽培の商品を揃えろ」
「泥が付いている野菜を売るな」
「1パックをもっと少量にしろ」
「1個ずつ売れ」
「安くしろ」等々
なにしろ姿(実態)が見えないところにもってきて、点で勝手なことを口々に言うものだから聞いている方は訳が分からなくなり、その陰に怯え続けるというわけだ。
もう1つは作業の効率化である。
従来のように朝夕の商品入れ替えではなく、客が多い時間帯は販売に集中し、夜中の客が少ない時に入れ替えできるから効率がいいし、人員シフトも組みやすい。
しかし、本当に消費者は24時間営業のメリットを受けているのだろうか。
そんな疑問を感じながら注視している内にあることに気付いた。24時間営業のスーパーと9時閉店のスーパーでは7時半以降の総菜の値引率が違うのだ。もっといえばそれまで9時あるいは10時閉店だったスーパーが24時間型に変更したとたん、7時半以降の総菜の値引率が下がったのだ。値引率が大きくなったのではなく、小さくなったのだ。
なぜそんなことになるのか。
弁当を含め総菜類が残れば翌日売るわけにはいかないから、「一般的には」廃棄処分になる。(一般的にはという部分に「」を付けた意味は不二家の例でお分かりだろう)
一方、9時、10時閉店の場合、廃棄処分にするより売り切ってしまった方がいいから、値引きをしてでも売ろうと考える。だから、遅い時間になればなるほど値引率は大きくなる。とはいえ閉店間近になるほど値引率が大きくなるわけではない。そこには人員配置の問題があるから、あくまで総菜等の担当者が残っている時間までだが。
そこでもう一度24時間営業の場合を見てみよう。
朝まで開けているわけだから値引きをして急いで売る必要はないと考えるようだ。
すると遅い時間に買い物をした消費者は鮮度が落ちているにもかかわらず、値引率も低い総菜類を買わされることになる。
こうなると24時間営業のスーパーが果たして消費者のためになっているかどうか分からない。むしろ商品によっては逆になっている。
製造日時なしの弁当は大丈夫か
決定的なのはスーパーで売っている弁当である。
以前から不審に思っていたのだが、ウォルマートの傘下に入った九州の食品スーパーでは2種類の弁当を販売していた。
1種類は製造日時と消費期限が表示されているもので、もう1種類は消費期限だけのものである。
夕方、値引きシールが貼られるのは消費期限しか表示されていない方の弁当なのだ。
なぜなのか。
製造日時が表示されていないので、その弁当はいつ作られたのか分からない。
しかし、両方とも消費期限は同じ日時が表示されているのだ。
にもかかわらず、片方は値引きシールなしで、片方だけに値引きシールが貼られているのはなぜなのか。
もしかすると、値引きシールを貼った弁当は製造日時が古いのではないかと、勘ぐりたくもなる。
前日の残り物弁当か、再パック商品か。
業界関係者は今どき再パックをするところはない、と否定するが、不二家の例を見ていると、果たして実態はどうか。
さて、件(くだん)の24時間営業スーパー、不二家の消費・賞味期限切れ材料の使用が問題になって以後、夕方5時前に値引きシールを弁当全品に貼りだした。
この変わり様は何だろう。またまた疑念が頭を過(よ)ぎるが、単なる過剰反応で、飛び火を恐れてのことではないことを祈りたい。
それにしても食の安全・安心はいまやどこに行ったのだろうか。
不二家が特別な例であることを祈りたいが、同社の場合はあまりにもひどい。
昨年9月以降、菓子箱の中にガの幼虫やユスリカが混入したトラブルが全国で12件も発生していたというし、細菌数が「無限」に発見されたシュークリームもあったという。消費・賞味期限切れの原料を使っただけではなかったのだ。
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