既存市場の盲点を突き、高画質・単機能で
ロングセラーを続けるリコーのデジカメ
機能付加、価格据え置き競争は現在、デジカメで行われている。
言い換えればデジカメ市場は成熟市場になっているということである。
コンパクトデジカメは手ぶれ補正機能、動画撮影機能、1000万画素超の高画質を競いあっているが、機能を付加しても販売価格は旧機種発売時と同じ価格に維持しているから、これは実質的な値下げであり、利益率はますます悪くなっている。
コンパクトデジカメで1000万超画素が本当に必要なのかといえば、答えはノーだろう。
1000万超画素で撮影してもそれだけの大きさの写真を使う場面はなく、ほとんどはサイズを小さくして使っているからである。
メーカーもそのことを知りつつ他社との競争に敗けるという幻影に怯え、ひたすら機能を付加し続けている。
このバカげた競争は誰かがババを引くまで終わらないだろう。
かつての不動産バブルや米サブプライムローンに端を発した金融危機のように。
このデジカメ競争はコンパクトデジカメにとどまらずデジタル一眼レフカメラでも行われている。
コンパクトデジカメは利益を生まないからとデジタル一眼に参入、あるいは軸足を移したメーカーがコンパクトデジカメと同じ競争を仕掛けるから、いまやデジタル一眼市場も利益率が悪くなっている。
本来、デジタル一眼はレンズセットを安く出す代わりに、交換レンズを買い増してもらい、そこで儲けるというビジネスモデルだった。
ところがレンズセットモデルを充実させるものだから(Wズームレンズ、中級期向けレンズを付けるなど)、それだけで満足し、交換レンズの買い増しをしないユーザーが増えている。
これがフィルムカメラ時代と大きく変わった変化である。
結局、カメラメーカーは自分で自分の首を絞めているわけだ。
とはいえ、すべてがそうではない。
その対極でロングセラーを続けているカメラもある。
代表格がライカだが、国内メーカーではリコーのデジカメ、「GRデジタル」がそれ。
「GRデジタル」は高画質を売り物にしたデジカメで、後継機「GRデジタルU」が発売されるまでの2年間もロングセラーを続けた。通常、1年前後で新モデルを出し続けている国内メーカーの中で、2年もモデルチェンジをせず売れ続けているデジカメは珍しい。
後継機の「GRデジタルU」になっても外観はほとんど変わってないどころか、3倍ズームは当たり前の時代にズーム機能なし、広角28mm単焦点レンズで勝負している。それなのに価格はデジタル一眼の入門機が買えるくらい高い。
つまり、「リコーGRデジタル」が証明したのは
1.多機能、低価格市場とは別の所にも市場がある。
2.初心者狙い市場を捨て、ターゲット、コンセプトを明確にした商品はロングセラーになる。
3.多機能競争は必要ではない。
4.大量生産・大量消費から少量生産・少量消費で利益が出せる商品への転換、あるいは少量生産・少量消費だからロングセラーを維持できる
という「市場の盲点」である。
こうしたことは別にいまに始まったわけではなく、以前から指摘されてきたことだ。
だが、「消費者ニーズ」という見えない陰に怯え、メーカーはなかなか転換できずにいる。
逆にいえば「見えない」から怯えるので、見えた企業が挑戦できたのである。
アスースは小型・携帯市場に、他社の半額以下という「思い切った低価格」で切り込むことによって。
リコーは多機能・低価格・初心者市場での大量生産・大量販売というマス市場の反対側を狙うことによって。
世界的な不況を機に市場は明らかに変わってきた。
自動車産業を例に挙げるまでもなく、もはや大量生産・大量消費の時代ではなくなった。特に成熟商品市場は。
では、どうすれば既存市場の盲点が見えるようになるのか。
それはいずれ栗野塾ででも触れることにしたい。
(完)
|