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流行る企画には理由がある
    〜女性の変身願望を捕らえた旅行企画〜


 モノが売れるには商品力や企画力などいくつかの要素がある。
商品力とは商品そのものが持っている魅力で、これが強い商品は黙っていても売れる。
そこにしかない、それしかないオンリーワン商品などがそうだ。
 別に商品に限ることではなく技術も同じで、他に変わるものがない技術は相手の方から求めに来てくれる。
 ただ、こうした商品、技術は少なく、ほとんどのモノはなにかしらどこかに似たようなモノがある。
となると、数ある似たようなモノの中から選んでもらわなければならないわけで、そのためには見せ方、訴え方が重要になる。
いわゆる企画力で勝負が決まるというやつだ。

 ところで最近、かかり付けの歯科医院でおもしろい企画を耳にした。
実はこの歯科医院、以前に一度紹介したことがあるが、全員愛想がよく、親切、丁寧なので、通院が苦にならず、もう1年も通っている。
当然のことながら担当の歯科衛生士との会話も増えるが、たまに担当衛生士が代わっても皆同じように話しかけてくるので、できるだけ患者と会話をするようにというのが院長の方針なのだろう。

 ある時、いつもの歯科衛生士に代わって別の歯科衛生士が付いた。
「栗野さんの担当は○○なのですが、休暇を取って台湾に行っているので、今日は私が担当します」
「台湾に旅行?」
「そうなんです。なんでも写真集を出すらしいですよ」
「写真集?」
「いま流行っているらしいんですよ。いろんな格好をして撮してくれるみたいです」

 写真集と聞いた時、自分で撮影した写真を出版するのかと思ったが、そうではないらしい。自分がモデルになり、撮影をしてもらったものが本になるようだ。
これは面白い。
そう感じると詳しく聞きたくなるのが性分で、早速、次回の診察で会った時に本人に根掘り葉掘り尋ねた。といっても、診察台の上で治療の合間に尋ねるわけだから、大体の内容を聞き出すまでに二度ほどかかった。

「写真集を出すために台湾に行ったんだってね。この間付いた衛生士さんから聞いたよ」
「えーっ、○○さん、そんなことまで喋ったんですか。そうなんです。モデルさんになってきました」
「それって、台湾に行ったついでに撮影したの。それとも写真撮影が目的で行ったの」
「まあ、撮影目的ですね。向こうで写真撮影して本にしてくれるというツアーがあるんです」
「そういうの流行っているの」
「マイブームというか、私達の周囲ではちょっとしたブームですね〜。結構皆行っていますよ」
 どうやら旅行会社の企画ツアーがあるらしい。
衣装などはスタジオにすべて用意されているようだ。その中から希望するスタイルのものを選び撮してもらうのだ。

 次に治療に行った時「今日、写真集が届いたんですが、見ますか」と、「まだ院長にも見せてないんですよ」と言いながら見せてくれた。
それは写真集というよりはアルバムに近かった。
 松田聖子風の髪型でお嬢様スタイルの写真もあれば、太もももあらわなチャイナドレスでちょっと小悪魔的な格好の写真もあったり、夜の妖艶な女性風だったりと、随分大胆な写真が多かった。
「30歳の記念です」と言っていたが、できばえには満更でもない様子だった。

 アルバムの写真は30枚だったが、実際にはもっと多い数の写真があり、その中から自分で気に入ったものを選ぶのである。
枚数とアルバムのサイズ(A4、B5などの)、注文冊数で価格が決まる仕組みになっている。

 最後に、この企画が流行る理由をまとめておこう。

1.若い女性の変身願望に応えている。
 人間は誰しも違う自分になりたいという願望を持っている。
 ただし、そのために準備を色々しなければいけないなどの面倒なことは嫌だが、旅行とセットになっていたり、スタジオに衣装他すべてが用意されている手軽さ。
それもいくつかのパターンの中から選べる手軽さが受けている。

2.非日常性の演出
 外国旅行という非日常性の中で、「変身」を演じる非日常性のW演出。
 もし、これが国内旅行先で日本人カメラマンによる撮影なら、非日常性とはいえ中途半端であり、ここまで人気になるかどうか。
外国だからこそ大胆に変身できるわけだ。
 因みに前出の彼女にいっそヌード撮影をしてみればよかったのに、と言ってみると、「ヌード撮影の場合3日間下着を着けたらダメといわれたので諦めました」と、ちょっと残念そうだった。

3.メモリアル旅行
 メモリアル旅行といえばかつては卒業旅行が代表的だったが、学生の頃に卒業旅行を経験した世代が、その後もなんらかの区切りを付ける時(付けた時)に旅行するケースが増えている。
 理由はなんでもよく、「よく働いた自分へのご褒美」だったり、「20代、30代最後の記念」だったり、「独身最後の記念」だったりする。
 例えば前出の彼女が「東京の友達に教えたら、20代最後の記念にヌードを撮ってくる」と言ったそうだ。

4.リーズナブルな費用
 10万円弱の費用で台湾旅行を楽しめる上に、プロカメラマンによる撮影で、ちょっとしたモデル気分にもなれる。

 この企画、長崎県のハウステンボスあたりでそのまま利用できそうだ。
ホテルヨーロッパの1室を使ったセレブコースなど、案外中国・台湾からの旅行者に受けるのではないだろうか。

 この企画、長崎県のハウステンボスあたりでそのまま利用できそうだ。
ホテルヨーロッパの1室を使ったセレブコースなど、案外中国・台湾からの旅行者に受けるのではないだろうか。
 いまや世界で最も金を使う旅行者は中国人である。
彼らにとっての非日常性を日本で演出するわけだ。
ただし、この場合はリーズナブル料金ではなく、「セレブ気分の演出」がキーワードになるだろう。


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