ケース2:電気自動車への移行を見据えた戦略的視点を
岡山のB社社長からメールが届いた。
福岡県のY電機にコネクションはないだろうか、という。
Y電機はロボット、モーター関連で有名な企業だ。一方、B社は自動車関連部品の製造・組立を中心に行っていたが、自動車産業不況の影響で仕事が激減しておりロボット分野への進出を目論んでいた。そこで接点を求めて私に連絡してきたのだった。
運良くY社の営業担当者が福岡から大阪支社に転勤して間がなかったので連絡を取ると、岡山もカバーしているので一度会社を訪問してみましょうと言ってくれた。
それからしばらくしてB社社長から連絡が入った。自社を訪問してもらい色々話ができたばかりか、その後、大阪支社を訪問し、先方のロボット関係部署の人にも会えるようになった、と非常に喜んでいた。
この不況期に同社は守りに入るのではなく、積極的に外部に自社の技術をPRする戦術に出たわけで、その姿勢は素晴らしい。
そこで少しアドバイスをしておいた。Y電機と付き合う真の目的をどこにおくのかという点について。
短期的、直接的にはロボットという新分野への進出であり、Y電機とのビジネス提携なのは言うまでもないが、B社の技術蓄積は自動車関係である。
現在、自動車関係は落ち込んでいるが、いつまでもこの状態が続くわけではないということが一つ。
もう一つは、自動車は近い将来、電気自動車になるだろう。すでにハイブリット車が注目を集めているが、これは過渡期現象で、やがては電気自動車になるだろう。とはいえ、現在のガソリン車が全面的に電気自動車にとって代わられることはないと思うが、少なくとも電気自動車が一定のシェアを誇るのは間違いない。そうなった時にものをいうのは電機の知識であり技術。もっというならモーターが中心になる。
そこでいまのうちに、電機、モーターの勉強をしておいた方がいい。Y電機との付き合いは目先の仕事だけでなく、そういうことを視野に入れた戦略的な付き合いをした方がいい、と。
ケース3:技術交流の意義とは
金型制作や部品加工を主業務としているC社社長は最近あることで悩んでいた。
3、4年前に県の音頭取りで始めた産学連携の研究が一向に実を結ばないことに焦りを感じていたのだ。
もともと2年間の補助金事業だったが、その期間が終わったからといってチームを解散するのはもったいないと、その中の数社と大学の研究機関は引き続き製品化を目指して連携していった。
しかし、産学連携とはいえ中心は大学の研究機関の方で、特にC社のような「機械屋」は装置、それも部分的な装置を作るしかない。どうしても受け身の仕事になる。しかも、行っているのがマイクロリアクターに関する分野だけに仕事の勝手が違う。まずチームの中で交わされる言葉からして化学用語が中心で、機械屋のC社社長にはよく分からない。
機械屋の仕事は形を作る、見える形にすることで、一度形にし、それを修正していくやり方だから、仕事の進め方もまるで違う。
このままこの分野に注力していていいのか。やるならやるで早く形にしたいが一向に先は見えないし、と悩んでいた。
たまたま同社を訪問した時、そういう悩みを聞いたので、C社社長には次のように考えてみたらどうかと助言した。
技術は今後、ある分野だけで成り立つということはなく、異分野技術の融合、あるいは業際技術でモノは作り出されていく。だから、いま産学連携でやっていることは、C社の将来に備え、化学分野のことを勉強させてもらっていると考えてみたらどうですか。そうすると、いまやっている産学連携の結果が思うような形で実を結ばなかったとしても、そこで行った異技術との連携は他の場面で役立ってくるでしょう。
経営に長期、中期、短期戦略があるように、現在行っている産学連携は結果を焦るのではなく長期的視点でとらえ、そこで学んだものを現在の仕事に生かしていくようにしたらどうですか。例えば業務内容の説明をする時に、マイクロリアクター分野のこともしているといえば、C社は化学分野のことも分かる機械屋かという受け止め方もされ、仕事の範囲が広がる可能性もあるでしょう、と。
以上、この数年で相談を受けたケースを紹介したが、景気悪化に伴い経営者もますます目先のことに目を奪われる傾向が強くなっているように感じる。だが、こういう時だからこそ、長期的な視点、戦略的な視点でモノを見、考えることが必要ではないだろうか。
|