半導体や精密部品に欠かせない技術
「この技術がなければ新幹線も走らんし、半導体も使えないし、飛行機も飛びませんよ」 と中島鍍金工業(福岡市博多区博多駅南、売上高2億6000万円、社員27人)の中島清社長は言う。 「この技術」とは今はやりのハイテク技術ではない。めっき、鍍金と呼ばれる表面処理加工技術のことである。 「めっき」という言葉にはどこか外来語的な響きを感じるが、れっきとした日本語であり、その歴史は意外に古い。最古のものでは藤ノ木古墳から出土した冠や沓などの装飾に使われたのが認められているし、奈良の大仏さんの金めっきも有名である。だが、その技術が広く応用されるようになったのはやはり戦後である。当時は技術レベルも低く装飾用が中心だったため塗装の一種ぐらいにしか認識されなかった。そのことが長い間この表面処理加工技術を正確に理解させることから遠ざけていたのは残念だ。 しかし、現在では装飾用はもちろんこと、プリント基盤やICリードフレーム、ハードディスクドライブ、CDーROMなど、また精密機械部品や電子部品の寸法精度アップ、スイッチやコネクターなどの摺動接点の摩耗防止、プラスチックの難燃性アップのためなど、数え上げればきりがないほどあらゆるところに表面処理技術が用いられている。「主要産業を支えるサポートインダストリー」といわれるゆえんである。
カニやエビにも金・銀めっき
数年前、九州めっき工業組合がカニに金めっき、銀めっきを施し「カニの金さん銀さん」として展示したり、伊勢エビや貝殻、石などにめっき処理をして展示し、人気を呼んだことがある。産業としてこのような需要があるわけではないが、表面処理加工技術の幅広さを示す一例である。 「事前に通電処理を施せばめっきできないものはありません」
製品に新たな機能を付与する加工技術
「以前は部材の表面をきれいに見せる装飾めっきが中心でしたが、最近は部材そのものの機能をアップする機能めっきに需要も業界全体のウェイトも変わりつつあります。実際、私のところでは100%近くが機能めっきです」 と語る中島清氏。 同社は以前、自動車や家電関係の量産ものを幅広く手がけていたが、約10年前から「高付加価値製品」への脱皮を図りつつある。装飾用表面処理加工技術だと簡単にほかのものに変更がきくため、たとえその時はよくてもデザインの変更などでいつ受注がなくならないとも限らないからである。実際、同社は過去に苦い経験がある。自動車のバンパーにクロムめっきがよく使用されているころ、かなりの量を某自動車メーカーから受注し忙しく仕事をこなしていたが、車種のモデルチェンジでバンパーがウレタン樹脂に変わったのを境に受注がピタッとなくなったのだ。 「ただ言われた通りの仕事をこなす下請けではダメだ。高付加価値製品を目指さなければ生き残っていけない」 この決心が装飾用表面処理加工技術から製品に新たな機能を付与する表面処理加工技術へと同社を向かわせたのである。 「表面処理加工技術を施すことで可能になることがあるんです。例えばコネクター(電子部品や装置を結合する器具)やロータリースイッチなどの接点は常にこすれ合うため両方が同じ硬さだと摩耗してしまいます。ところが片方が硬く、もう一方が軟らかいと摩耗しません。そのため一方に硬度の銀めっき、他方に軟度の銀めっきというように軟硬度を組み合わせた銀めっき処理をすることで耐摩耗性が高まります。こういうことも表面加工処理技術だからできるわけです」 表面処理加工することで製品に別の機能を付け加えたり、ある機能をより高めたりできるというわけだ。 現在、同社では携帯電話用部品の金めっき、自動車のキーの接点の銀めっき、半導体部品の金めっき、電力関係部品の銀めっき加工処理などを行っているが、製品の電子化、コンパクト化の流れを受けて表面処理加工技術に対する要求は年々高まっている。それも単に硬度や耐摩耗生、密着性、電磁波シールド特性を付与するものから、これらを組み合わせた複合特性が要求されるものへとどんどん複雑化、高度化してきている。その一方でコストに対する要求も厳しくなるばかりである。例えば金めっきの膜厚は0・1ミクロン〜0・5ミクロンという精度が要求されている。 「金めっきの場合などは膜厚が厚ければ利幅を圧縮しますし、逆に薄ければ製品検査にパスしません。いかに誤差範囲内で、均一の厚さに加工するかです」 一般的に表面処理加工をする前に各素材に応じて脱脂ー酸洗いー電解洗浄ー中和といった前処理工程を繰り返す。素材によりこの前処理工程が複雑になるし、洗浄に市水ではなく純水を利用することもある。このように素材に応じて前処理工程を選定することが重要で、そのための研究は欠かせない。
5S運動や提案制度で日々技術を改善
表面処理加工技術といえばかっては3Kと見られていた職場だが、最近は業界上げて汚名返上の努力が行われている。前処理工程の水洗水はなんども排水処理施設を経ることで無害化した水として排水されているし、希少金属は回収して再利用するなどリサイクルシステムも整備されている。 さらに同社では整理、整頓、清潔、清掃、しつけの「5S運動」を展開し、社員の意識向上に努めている。「汚れた職場からはいい製品ができない」(中島氏)からである。 現在、月に一度、品質会議を開き、品質向上の努力をしている。また2年前に「私の提案」制度を設け、品質改善、業務改善に社内挙げて取り組んでいる。「私の提案」は@なにがAどのようになっているかBどのようにしたらCどうなったか、と現状と改善後が一目で比較できるように一定の書式を設け、1提案提出につき300円の報奨金を出している。 「会社の生産アップ、品質向上、コストダウンにつながるような提案ならなん万円か出してもいいんですが、残念ながらまだそこまでの提案はありません」 提案に対しては中島氏が1枚ずつコメントを書き加えて本人に返すなど、出しっぱなしにならないようにしている。そうした努力が実を結び、最近は「品質、生産に対する社員一人一人の意識が随分変わってきた」という。 また加工ラインごとに月次目標を設定し、達成すれば大入り袋を出しているのも励みになっているようだ。
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