数知れぬ失敗作を乗り越えて
「それは色々ありましたよ」
一見、順風満帆で来たように見える同社だが、むしろ荒波の連続だったと篠原は言う。
シリコンサイクルといわれる景気の変動に泣かされもしたし、「目線の高さの違い」にも随分苦しめられた、と。
「目線の高さの違い」とは仕様の違いでもある。
半導体メーカーによっては作業手順が微妙に違ってくる。その度に装置の仕様を変えなければならない。それも1台や2台ならいいが、何10台ともなると、その作業だけで大変である。どうかすると、年間製造計画・売り上げ計画が大幅に狂ってしまう。そんな問題に何度も泣かされてきた。
見込み違いの商品も数えきれぬほどあったし、意外に短期ヒットで終わった商品もある。
パチンコ業界向けに開発した「クリーンシャワー」もその一つだろう。
超微粒子の消臭剤をエアーに混ぜて吹き付け、衣服や頭髪に付いたタバコの臭いを消す消臭ボックスである。一時ヒット商品になりそうな気配を見せたが、パチンコ業界の景気に左右され、期待したほどには成長しなかった。
海外の方が有名
シェアも圧倒的な
Daiichi
非接触縦型搬送システムは大見が感心したように画期的なアイデアで、今後が大いに期待されてはいるが、市場の立ち上がりはまだこれからだ。
現在の半導体製造ラインは基本的に水平移動に対応している。そのため縦型搬送が省スペースで、将来的に非常に有望と分かってはいても、ラインのある部分だけに縦型搬送を採用するわけにはいかなかった。替えるならライン全体を縦型対応にしなければならない。新工場建設時や新ライン導入時以外での採用はあまり望めそうもなかった。しかし、積極的に新工場建設、新ライン導入を行っている海外工場なら採用が早いかも分からない。
実際、昨年、台湾の半導体メーカーに納入したラインが今年から本格的に稼働しだしている。
「国内では第一施設工業と言ってもそれ程有名ではありませんが、海外、特にアジアでは第一施設工業といえば半導体メーカーには皆知られていますよ。うちは海外の方が有名ですね」
と篠原は笑う。
ある時などそれぞれ別の納入業者から見積もりが来たが、納入先メーカーは同じだったという笑い話のようなこともあった。それ程「クリーンルーム内の搬送システムならダイイチシセツ」と高く評価されている。
日進月歩ならぬ秒進分歩といわれるのが半導体の世界。その業界にあって常に技術革新に挑戦し、陰で半導体製造技術を支え続けている第一施設工業の挑戦はまだまだ続く。
「数年内に上場も考えている」
そう言う篠原の顔は自信に満ちていた。
(文中敬称略)
(文責:ジャーナリスト・栗野 良)
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