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売り上げや事業の拡大には興味がない。
技術を次の世代に渡すために会社を設立した。


株式会社アウストラーダ 代表取締役 赤峰敏之 氏
大分市上野町13ー54 電話:0975-43-1491

 「パソコンおたくだ」と自身で言う。学生の頃からメモリーの設計をしたり、ソフトウェアを開発しており、その延長で現在まできている。パソコン黎明期に活躍したアスキーの西氏やソフトバンクの孫氏などと同世代である。孫氏が音声装置付きの「多国語間翻訳機」を考案し、シャープから発売した頃に、赤峰氏とはラリー用コンピューター開発の企画が進んでいたらしいが、「金型を出せと言われたが、作るのに600万円必要で、学生でそんな金はないからやめた」。もし、この企画が実現していたら西氏や孫氏と並び称されていたかもしれない。

売り上げを上げ、会社を大きくする
チャンスは何度もあったが、
興味がないので全部断ってきた。

 --会社設立の動機はなにですか。
 赤峰 会社を設立したのはソフトウェアの料金を振り込んでもらう口座が必要だったからで、社名とか本社所在地などには全く興味がないんです。物を作って売り出すとか、売り上げを上げるとか、自分のブランドを作るとか、事業を伸ばすということには興味がありません。
 ただ、自分の技術を次の世代に渡すためには組織化しないといけない。そのことが一つ。次は、一人の小さな技術者では技術の幅が広くなり過ぎて開発ができなくなったのでシステム化しようということです。会社を大きくしようということではなくて、いまある技術をよりいいものに変えるための作業を行っている。すると現象として会社の売り上げが上がり、従業員数が多少増えてきたということです。
 会社をもっと大きくして、売り上げを上げて、バンバンやるつもりだったら、とっくにそうなっていたと思います。そういうチャンスは何度もありましたけど、そういうことには興味がないので全部断ってきました。
 ソフトハウスの連中などとよく話をするのは、いかに売り上げを落とすかです。売り上げが上がると資金ショートとか銀行融資の問題が出てきますから。原材料もお客さんに買ってもらいますし、うちは純益の部分だけを売り上げとしていただきます。社員の給料プラスアルファが入金されていればそれで会社は成り立ちますから。

 --大分県では最初に中小創造法の認定を受けていますね。認定内容は「安価で小型高速な科学技術計算コンピューターの開発」でしたね。
 赤峰 中小企業のオヤジとして10数年やってきているのにベンチャーブームでいきなりベンチャーだという形容詞を付けられたわけです。ただ自分が目指してきたものがベンチャーの究極の姿だということに関してはそんなに異論はありません。

自然に囲まれた静かな環境の中で仕事をしたい、と
思ったから湯布院の別荘地にに開発室を作ったので、
儲かったから別荘を買ったわけではありません。

 --在宅勤務とかサテライトオフィスというような形態を取られていますね。
 赤峰 従業員の中には何カ月に一回しか会わない人間もいます。出勤してもしなくてもいいんです、自分の責任で各人が仕事をしていれば。
 ただ仕事は、某自動車会社のピストン内の燃焼シミュレーションなど、いい仕事をたくさんいただいています。光造形システムの仕事にしても、科学技術計算コンピューターの製作にしても、「おたくでないとできないから」と話がきて、やらしていただいていますから。声をかけていただけることに感謝しています。その期待に応えるためには大きなビルを建てたり、威容を誇るように社員が一カ所に集まって仕事をすることではないと思います。
 うちがよそと象徴的に違うのは支払いは前払い、買い叩きはしないという点ですね。海外ではオーダー時点で30%、納品時に70%支払いというのは当たり前でしょう。日本だけですよ、20日締めの月末払いとか、手形を切るような信用のある会社などと、とんでもないことを言うのは。手形を切るとか後払いにするというのは、そこにバブルの売り上げが存在するわけです。他人のお金と品物を使って商売しているわけでしょう。これでは自己責任がどこにあるの、って話ですよ。 私たちはモノを買う時は現金ですし、まず自分のものにして、自分の技術にしてから他人に渡します。例えば他人に部品製作を頼む時でも、まず自分で設計図を書いて、自分で作って、それから第3者に頼むんです。自分でできないことを他人に頼んではダメなんです。
 うちは現金以外の買い物は許しません。預金残がある範囲内でしかモノを買ってはいけないというのが大原則です。だからこそ自分がやらないといけないことがやっていけるんです。来月いくらお金を返さないといけないから、これだけ仕事をしないといけない、ということがないんです。
 社員一人一人が使う必要経費は完全フリーです。国内外の出張を問わず誰の許可もいりません。例えば台湾への出張も自分で決めて、自分でチケットを手配して行くわけです。その代わり自己管理は厳しいですよ。仕事が終わってから中国語講座に通っている社員もいますし、皆結構大変ですよ。厳しくて付いてこれない人間は辞めていきますから。

 --日常業務の連絡はメールとか電話、ファクシミリですか。
 赤峰 そうですね。それで特に問題ないんで。ここ湯布院も儲かったから別荘として買ったわけではなく、最初からこういう環境の中で仕事をしたいと考えて開発室を作ったわけです。この場所が大分や福岡から皆が集まるのに便利なんです。高速を下りてすぐですから。

取材を行った場所は湯布院の開発室。大分の本社は普通の民家(赤峰氏の生家)である。開発室の地下倉庫には加工機械が据え付けられ、全メーカーのパソコンパンフレットが保存されている。すでにメーカーにもないパンフレットがあり、資料的価値もある。

光造形システムを使えば
三次元の造形物が
短時間で製造できる。

 --技術分野は光造形システムと並列コンピューターシステム、シミュレーションソフトウェアの開発ということですが、光造形システムとはどういう技術ですか。
 赤峰 例えば3次元CADで何か部品を作り、それをプラモデルにしたいと思えば、まず金型を作り、その次に射出成形をしてと何カ月もかかるし、金額も何百万とかかりますよね。光造形システムというのは、こういうプロセスを一切省き、薄く伸ばした高分子の液体に紫外線レーザーを照射して固め、3次元の造形物をつくる新しい製造方法なんです。例えば入り子構造になっているような複雑な形状のものは、一つだけ作って欲しいと言っても試作屋さんも作れませんよね。それが光造型システムだとコンピューターで設計して出力するだけで簡単に手にとって見ることができる。だから開発のサイクルが短くなるわけで、そこに需要が発生するわけです。

 --今後、光造形システムの需要は増えるでしょう。
 赤峰 経済的に元が取れるような市場にはまだなってません。まだ使い方が難しいし、ある特定のところでは経済性がありますが、まだまだ普及するほどの技術でもないし、用途も分からない。まだ始まったばかりですよ。今後まだかなり多くの技術を開発していかなければなりません。

 --ということは、まだビジネスとしては成り立っていないということですか。
 赤峰 第3者が私どもの技術を見た時に、この分野なら飯を食えるというものはすでに存在しますから、製造業の大手さんが機械を買っていきます。実際、私どもの飯のネタはその辺りにあります。ただ光造形システムをたくさん作り,売り上げをどんどん上げることには興味がないんです。自分達が食える分だけ売れればいいんです。自分達がこの技術をよりよくすれば自然に市場は広がっていき、コストは下がっていきます。

 --製造・販売はデンケンエンジニアリング株式会社(大分市)が行うようになっていますね。
 赤峰 光造形システムを開発した時に県の助成金を受けたのが縁で、県の仲介でデンケンエンジニアリングを紹介してもらい、同社に特許専用実施権を与え、製造・販売を行ってもらっています。専用ソフトはうちが開発しサポートしていますが、デンケンさんは新しいものにチャレンジするという意欲をお持ちの企業ですし、同社のおかげでうちも儲けさせてもらっています。

<プロフィール>
昭和29年11月大分市上野町に生まれる。同49年福岡大学理学部応用物理学科入学。昭和59年会社設立。会社のモットーは「遅刻せず、怪我せず、仕事せず」。「遅刻せず」は社会の最低限のルールを守ること。「怪我せず」は会社より個人が大事。「仕事せず」は、仕事と思えばきついが、遊びだと思えば夢中になれるから。


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