2.なぜ挙党一致で対処しないのか
今回の事態は国難である。与野党一致して復旧・復興に取り組むべきだろう。ところが、与野党一致どころか挙党一致さえできてないように見える。こういう時にまさか反小沢色を貫いているわけではないと思うが、起用するのは相変わらず反小沢系議員ばかりだ。
災害発生時に大いに頼りになり、また協力を要請したいのは地理を含め被災地の事情に詳しい人、いわゆる土地勘がある人だ。
卑近な例だが約2年前、岡山県の実家が集中豪雨に見舞われた時、いち早く弟が神戸から実家に駆け付けた。それは弟に地元の土地勘があったから通行止めの道を避け、遠回りしながら裏道を抜け、辿り着けたのだ。後日、弟と一緒にそのルートを通ってみたが、私はそういうルートで行けることすら知らなかったし、そうした道を走ることなどとてもできなかっただろう。
こういう時に土地勘がない人が外部から入ろうとしたり、指揮しようとしても上手く行かないことが多い。急を要する時は地元の事情に詳しい人に任せた方が物事はスムーズに進む。
今回の場合でいえば東北出身の議員、それも与野党に幅広い人脈を持っている人物に責任者になって救援・支援指揮を執ってもらうのが一番ではないか。この条件に当てはまる議員として即座に名前が出てくるのは小沢一郎元代表だろう。小沢氏なら野党にも人脈がある。
実は地震直後にすぐそう考えたが、菅首相が今回のことで小沢氏に接触した形跡はない。なぜ小沢氏に協力を要請しないのか。
代わりに接触したのが自民党の谷垣総裁だ。入閣を餌に大連立を持ちかけたが、自らの政権延命策にしか過ぎないと見抜かれ、断られている。政治的思惑で動いたとは考えたくないが、どうもそういうところがこの人には見え隠れする。
国難である以上、与党も野党もない。力を合わせてこの難局を乗り切りたい。そのために大連立を、という発想なのだろうが、いきなり電話で呼びかけて、はい、連立しましょう、という話になるとでも思ったのだろうか。
それにしても菅首相の頭の中にはいつもバイパスが存在するようだ。それも自分に都合のいいバイパスが。
大連立をいう前に挙党一致の体制を作り、適材適所で人材を配置し、事に当たるべきである。これだけの大災害になると多くの人材が必要になる。民主党内に人材がいないわけではないと思うが、なぜか災害発生後、表に出てくるのは限られた人のみで、他の議員、大臣はどこでなにをしているのだろうと思ってしまう。
同じことは小沢氏にも言えることで、この国難の時になぜ自ら菅首相に呼びかけ、災害復旧支援に動こうとしないのか、率先して現地入りしないのか。この点は大いに不満だ。
いま問題になっているのは菅首相が全てを決断決裁しようとしていることだ。あらゆる情報をまず最初に官邸に上げなければならず、そのために対応が遅れがちだと言われている。もし、それが事実だとすればとんでもない話だ。
これだけの大災害で、しかも次から次に問題が起きているような時に現場の責任者が決断・決裁できないのは問題だ。
今回は地震による被災と原発の放射能漏れ(最悪の場合は爆発危機)という2つの問題に同時に対処するという2正面作戦を展開しなければならない。しかも、この2つは対処の仕方が違っている。普通なら各作戦ごとに最終責任者を置き、事に当たるべきだろう。その体制が取られていないから、他の新たな問題を引き起こしている。
3.支援を阻む役所的な対応
今回の巨大地震は「100年に一度」とか「想定外」とよく言われる。そのことを否定はしないし、事実そうだろうと思う。
想定外の出来事が起きたことは仕方ない。ただ、その後の対処で被害を大きくも小さくもできる。企業活動でクレームをゼロにできないのと同じだ。クレームは減らす努力をしなければならないが、問題はクレームそのものより、クレームが起きた後どのように対処するかだ。今回も起きたことについてとやかく言っても仕方ない。原因解明は必要だし、しっかりとやらなければならないが、それはもう少し落ち着いてからだ。いまは目の前の被災者、被災地をどうするのか、被害をこれ以上拡大させないためにはどうすればいいのかを考え、行動すべきだろう。
ところが、その対処の仕方に問題がある。システムがうまく動いていないというか、既存のシステムにこだわるべきではないケースでも、既存のシステムを適用しようとするからチグハグな対応になる。
具体的に言うと、被災直後に諸外国から支援の手が差し伸べられた。原発の専門家の派遣、原発への注水車の提供、医療チームの派遣等々。しかし、それらの申し出がすんなり受け入れられはしなかった。
医療はイスラエルのチームが南三陸町で地元の医師と協力しながら医療活動を行ったが、これは海外からの医療活動が例外的に初めて認められたケースである。
というのも日本国内で医療行為が行えるのは日本国内の医師免許を所持している場合だけだからだ。この法律を盾に中国の海軍病院船派遣は断られた(「港が壊れているので船が近づけない」との理由)し、軍の医療チーム派遣も断られている。また外国から持ち込まれた薬は厚生省の認可が下りてないと使われることはなかった。
イスラエルの医療チームのみが例外的に被災地で医療行為ができたのは南三陸町の側から「ここに来て欲しい」という要請があったからだ。要は外国からの救援隊に被災地側が自分達の地域に来て欲しいと要請すれば、そこに行けるらしいが、そのことを知っている被災地はほとんどない。
では、国の方で教えればいいようなものだが、それをしないものだから、医薬品が底をつき困っている病院や、医師がいなくて困っている避難地区に支援の手が届かないという状態が半月以上も続いた。
以上はシステムがうまく動かなかった例だが、非常時にもかかわらず頑なに平時のシステムを適用したが故に支援の手が届かなかった例も多い。
例えばインドネシアは毛布約1万枚を送ったが、毛布のサイズなどの「仕様が合わない」と日本側から説明され、準備し直したようだ。このような時にサイズ云々の話ではないと思うが。これではお国からの支援は要りませんと断っているようなものだ。また、タイはタイ米1万トンのほか、もち米5000トンを送る計画だったが「輸送先などの明確な返答がなく」支援を断念している。(産経新聞4月3日)
このほか、中国は2回に渡って緊急支援物資を届けたが、飲料水やゴム手袋などを送った2回目では、物資が日本に到着した後、日本側の求めで、中国側が日本国内の運送会社を手配して被災地に運ぶ(読売新聞3月29日)という信じられないことまで起きている。ここまでくると甘えというより、当方は希望していないが、支援物資を送るなら勝手に送ってくれ、当方は関知しない、という態度に取れる。
一体どこの国に、送った支援物資を現地まで自腹で送ってくれという所があるのか。「被災地への運搬も援助国に頼られると、通れる道まで調べる必要があり、とまどいがある。調整があればもっと迅速に届いたのではないか」と支援国がいうのは当然だろう。
とにかく、こうしたチグハグというより無茶苦茶な対応が多すぎた。そうした対応が被災地での救援活動の遅れや、原発の放射能漏れへの対処を遅らせたのは間違いない。それもこれも地震・津波被災地と、原発の放射能漏れ事故という質が異なる2つの問題を1カ所(官邸内の少人数)で対応しようとしているからで、そもそもそこに無理がある。
(続く)
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