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なぜ、日本にビル・ゲイツが出ないのか(後)

 日本人のベンチャースピリッツを変えたのは誰かと問われれば、私は躊躇なく元ライブドアの堀江某と元村上ファンドの村上某だと答える。
 彼ら以前のベンチャー経営者には少なくとも自らの技術やソフト、サービスで「社会の役に立ちたい」という考えがあった。
 ところが堀江某、村上某、折口某にはそれが当初から感じられなかった(当初、村上某には理念があったように見えたが)。彼らに感じたのは金の臭いだけで、理念などこれっぽっちも感じたことはなかった。だから、私は最初から一度も彼らを褒めたことも持ち上げたこともなかった。
 では、彼らが日本人のベンチャースピリッツを変えた1級戦犯かといえば、そうではない。
 1級戦犯は彼らのような人間の輩出を煽った国である。そして、それを極端に推し進めた小泉政権だろう。だが、いまだ国はなんらの反省もない。

 ここまで書けば、なぜ日本にビル・ゲイツが出ないのか、頭のいい読者は大体察しが付いたことと思う。
しかし、私がいう意味はもう少し違う。
 ゲイツ氏が偉いのは6兆円も個人資産を稼いだからでも、52歳で経営の1線を退いたことでもない。
彼がスゴイのは引退後、個人資産の大半をつぎ込み、慈善事業を活動の中心に据えたことである。
 すでに2000年に、エイズやマラリアなど最貧層の健康を脅かす問題の解決を目指し、教育の機会を提供する取り組みを進めることを目的に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を彼は設立している。
 しかも、慈善財団を設立しただけにとどまらず、自らが慈善活動に従事すると表明したのである。そして7月には、1億2500万ドル(約135億円)を投じ、発展途上国の禁煙促進運動に参画すると発表。
 この活動自体はニューヨーク市長のブルームバーグ氏がすでに行っていたものだが、それに今回ゲイツ氏が加わった格好になる。それにしても両氏が投じた資金は合わせて約540億円になるというからスゴイ。

 アメリカではボランティア活動、慈善活動をしない人間はどんなに金を儲けても尊敬されない文化がある。これは宗教的な教えと無関係ではないだろうが、経営者は多かれ少なかれ慈善事業を行っているし、そうするのが当然だという考えが社会にある。
 逆の言い方をすれば、慈善活動をしない経営者は尊敬されないということだ。
「金儲けのための金儲け」に精を出した輩は決して社会の尊敬を集めないし、そういう経営者になりたいとは誰も思わないのだ。

 ビル・ゲイツ氏ほど金を儲ければ誰でも少しは社会に寄付したくなる、という意見もあるかもしれない。
もちろん、自らの優位性を誇示するために寄付をする人もいる。
だが、それで資産の大半を寄付できるだろうか。
金持ちは金を使わないから金持ちで、死後に寄付したという話は時々あるが、生前、資産の大半を寄付したという話は、まず日本では聞いたことがない。

 こうした行動はゲイツ氏だけではない。
マイクロソフトの共同創業者、ポール・アレン氏もポール・G・アレン一族財団を創設し、毎年3000万ドルを民間非営利組織に分配している。

 翻って、この国ではどうだろう。
1時代を築いた企業家は資産の何分の1かでもを慈善活動に寄付したことがあるのだろうか。球団を買ったり馬主になったという話はよく聞くが、社会貢献をしたという話は最近ついぞ耳にしない。
「社会に貢献する」という言葉を額に入れて飾っているだけでは意味ないと思うが。

 なぜ、この国ではビル・ゲイツ氏に代表されるように慈善活動に寄付・従事する経営者が出て来ないのだろうか。
 例えばかつて1時代を築いたベンチャー経営者、アスキーの創業者・西和彦氏は現在、学校法人須磨学園の学園長であり、マイクロソフト日本法人の前会長・古川享氏は現在、慶應義塾大学教授である。
もちろん両氏とも非常に立派な人であり、尊敬に値するのは間違いない。
それでも敢えて言う。
もし彼らがゲイツ氏のように第2ステージで慈善事業を行っていたり、あるいは現役企業家として後輩経営者を育てることに従事していれば、多くの若者が彼らに続きたいと思っただろう。
 でも、彼らが選んだ道はそうではなかった。
重ねていうが、だからといって彼らの過去の業績が否定されるものでも、現在の生き方を否定するものでもない。
 それでも結果的に、この国では企業家よりは官かそれに近い立場の方が有利なのだという印象を与えたのは事実だろう。
官尊民卑、とまではいわないにしても、それに近い感情を生んでいる。

 本来、日本人は助け合う民族である。
先義後利という言葉もあるように、儲けばかり考えてきたわけではない。
戦前、戦後まもなくの経営者には私利ではなく公利のために粉骨砕身頑張った人達が数多くいる。
それがバブル期を境に目先や私利のことしか考えなくなった経営者が増えた。
国も企業家を本当に輩出するつもりなら、そういう人達の社会貢献的な業績にもっと光を当て、そういう人を優遇すべきだろう。
でないと、いつまでたってもこの国に「ビル・ゲイツ」は現れない。
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