4月6日、BMWの正規ディーラー、富士モータース(株)(福岡市)がヤナセグループに全株式を売却し、ヤナセバイエルンモーターズ福岡(株)として再出発したが、このニュースは地場企業にある種の驚きを持って迎えられた。
というのは、輸入車販売の中でも唯一好調なBMWの老舗販売会社が身売りしたからである。また、M&Aがここまで身近になったということに驚きを隠さない経営者もいた。いままでM&Aは大企業同士のもの、あるいは地場企業にはまだ縁遠いものと考えていたのが、地場の中小企業でさえその対象になる時代だということを思い知らされたからだ。
富士モータース(株)とヤナセバイエルンモーターズ福岡(株)からBMWのユーザー宛に届いたハガキには次のように記されていた。
「平成19年4月6日をもちまして、ヤナセグループの100%子会社として、新たな経営体制にてBMWディーラー業務を再スタートすることとなりました。新体制におきまして、当社拠点は引き続き『ヤナセバイエルンモーターズ福岡株式会社』の拠点として、お客様への従前と変わらぬ販売およびアフターサービス活動を実施してまいります・・・」
「弊社は、富士モータース株式会社よりBMW車のディーラー業務を継承し、平成19年4月6日より『ヤナセバイエルンモーターズ福岡株式会社』に社名を変更し、福岡本店(旧本店)・福岡東支店(旧東支店)・福岡西支店(旧西福岡支店)・太宰府支店・久留米支店・福岡アプルーブドカーセンター・賀茂アプルーブドカーセンターの7拠点にてBMW車の販売、およびアフターサービス活動を展開することとなりました」
通常、会社を身売りする理由はそう多くはない。
一つはその事業が赤字の場合だ。
もう一つは、その事業は黒字でも本業(他事業)が赤字で、本業(他事業)の赤字を補填するために売却するパターン。
3番目は経営者が高齢で、なおかつ後継者がいない場合だろう。
富士モータースの場合はどのパターンになるのか。
まず、野口社長は2代目で40代(前半と聞いた)と若いから、3番目の高齢経営者で後継者難のパターンではない。
では、事業が赤字だったのか。
そこでちょっと新車販売台数を見てみると、06年度の国内車は対前年度比8.3%減なのに対し、輸入車販売台数は前年度比5%減にとどまっている。しかも国内車が4年連続前年度割れなのに対し、輸入車は2年ぶりの減少。国内車と比較して輸入車は善戦しているといえる。中でもBMWは堅調で、フォルクスワーゲンが7年連続で首位を守りはしたが対前年度比0.8%減と落ち込んだのとは対照的に、BMWは対前年比4.9%増で2位に浮上している。
富士モータースは福岡ではBMWの正規ディーラーとして古くから知られており、近年は「Fukuoka BMW」の店名で拠点も増やしていることを併せ考えると同社も善戦していたはずである。仮に100歩譲ったとしても、好調なBMWのディーラーの中で同社が苦戦していたとは考えにくい。*
それではなぜ、富士モータースは会社を売却したのか。それもライバル関係にあったヤナセグループに。
(2)に続く
*本稿執筆時には分からなかったが、その後富士モータースは赤字経営に陥っていたことが分かった。(2)で少し触れているが、ノルマ達成のための無理な「自社買い」や出店経費が嵩んだのが影響したと思われる。
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