話を元に戻そう。海外進出していた製造業が国内回帰すれば雇用が戻り失業者は減るのか。イエスと言いたいが、まず進出前の雇用水準には戻らない。国内回帰して新工場を建設する場合、徹底的に省力化を図り、工場は無人化に近い状態になる。キャノンの新工場がそうだった。
なぜ、そうなるのか。人件費をコストと捉えているからで、新興国へ進出していた時の総人件費を国内ではさらに下げたいと考えるから、工場は必然的に無人化に近くなる。
そこまで徹底しなくても、国際競争力に勝つためには人件費=コストと考える以上、低賃金雇用(正規雇用であれ非正規であれ)になる。結局、働く人の可処分所得は低いままか、全くないかの状態に置かれたままであり、消費に回す金はない。つまり国内需要は増えず、景気が上回る保証はない。
企業に任せていれば失業者が増えるばかりだ。それなら政府が出るしかない。と企業に圧力をかけているのがトランプ氏だ。次期大統領から言われれば仕方ない(今後、不利益を被るかもしれない)と空調機器メーカーのキヤリアや自動車メーカーのフォード・モーターは受け入れる姿勢を示している。
米国、中でも共和党は政府の個人や民間企業への介入を嫌う。ところが上記のトランプ発言は間違いなく政府の民間企業への介入である。にもかかわらず、それに従うというのは「大きな政府」嫌いの米国にしては異常としか言い様がない。米国が変わりつつあるのだろうか。
そうそう、日本でも同じようなことがトランプ氏より先に行われていた。労働者に代わって政府が民間企業へ賃上げを要請していたから、もしかするとトランプ氏は日本の物真似?
需要活性化に必要なのは
米国経済が問題になるのは米国自身のためということもあるが、それ以上に世界経済に大きな影響を与えるからである。なぜ米国1国の経済動向が世界に影響を与えるのか。米国が経済的に超大国だからということもあるが、それ以上に米国が世界の消費を引き受けている一大消費国だからである。
奇妙な話だが米国は国も個人も借金漬けになりながら消費を続けているのである。諸外国に売るより、諸外国から買うものの方が多い。当然、国内製造業は衰退し、労働者は失業するか低賃金に甘んじなければならない。そこに拍車をかけているのが移民と新興国からの製品流入である。
トランプ氏は大統領就任後、この状態を変えようとメキシコとの国境に物理的な壁を作り国境を閉鎖し、移民の流入を阻止しようとしている。また国内企業に対しては海外移転阻止、国内回帰を促すべく圧力をかけている。
これは貿易的には保護貿易に舵を切ることを意味しているだけでなく、世界に開放していた米国市場を閉ざすことを意味している。世界の消費を一手に引き受けていた米国が市場を閉ざそうというのだから、実際に実行されれば世界経済に大きな打撃になるのは間違いない。全面的な実行とはならず、一部実行(関税率アップ)でも、だ。
ただ、景気低迷はなにも米国に限ったことではない。先進国は軒並み同じような状態に置かれている。だからEU諸国で「トランプ現象」が起きているし、イギリスのEU離脱も同じである。いまのところなんとか好調なドイツ経済が失速すればEUのみならず世界経済は一気に不況に突入する。打開策はあるのかないのか。
先進国の経済が軒並み低迷しているのは需要が活性化しないからだ。では需要を活性化させればいいではないか、というのが従来から言われている見解である。そこまでは誰も異論がないだろうが、問題はその次だ。どのようにすれば需要が活性化するのかで意見が割れる。
1つの方法は市場へ資金を投入するやり方だ。これは日本銀行が採った方法で、お札をどんどん印刷し、市場で流通する金を増やせば需要が活性化するというわけだ。そして日銀はマイナス金利を導入した。市中銀行が日銀へ預ける金に対し金利を取るようにしたのだ。銀行は資金を日銀に預ければ預けるだけ損をすることになるから市中に金を流し(企業等に貸し出し)、わずかな金利でも稼いだ方がいい(金利ゼロで貸し出しても損をするよりはまし)と考えるから、市中に金が出回るようになり、人々は金を使ってモノを買うようになる。
こう考えてマイナス金利政策を打ち出し、市中に金をジャブジャブ出したが、3年たっても需要は活性化しなかった。いくら金がだぶついても使う宛てがなければ企業は銀行から金を借りてくれない。ましてや景気の先行きが不透明だったり、業績アップの見込みがなければなおのことだ。
実のところ金融政策だけでは需要を高められないということだが、まだ通用すると思っている人達がいるということだ。
(4)に続く
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