本稿はNo.440(東北旅行で垣間見た頑張る企業)の続き(延長線上)で書いていたが、内容が前稿のタイトルと少し異なってきたので、独立した稿にした。
というのも、星野リゾートのことを書きながらアイリスオーヤマのことを思い浮かべたからである。前者はサービス業で、後者は製造業。そのどこに類似点があるのかと思われそうだが、業種は違うが両者のやり方には非常に似通ったところがある。結論から先に言えば、ともに現場に大きな決定権を与えているのだ。
短期開発の秘密は現場への権限
そのことを見る前に、まずアイリスオーヤマについて簡単に説明しておこう。同社はメーカーでありながら卸業も行う「メーカーベンダー」と自らを規定している。販売先は主にホームセンターで、収納用品、ガーデニング用品、ペット用品などを開発・販売しているが、最近は家電製品分野で次々にヒット商品を開発し急成長している。
特徴はすき間商品、改良商品を短期間で開発し、市場に出すこと。開発から市場に投入するまでの時間は「どんなに頑張っても我々のところでは真似ができないくらい短期間」と大手メーカーが舌を巻くほど短い。
なぜ、同社はそれが可能なのか。なぜ、ヒット商品を出し続けることが可能なのか。
その秘密は徹底した現場主義にある。ムダな会議も稟議もなく、必要と考えれば現場同士が話し合い、即座に対応する。時には製造ラインさえ変更して対応するのだ。
一般的に組織は計画に基づいて(従って)製造しているから、よほどのことがない限り、その計画を変更するのは難しい。よしんば変更するにしても、上司にお伺いを立て、稟議書を上げ、会議で変更の必要性を説き、直属部門のトップから他部門のトップへ根回し、あるいは掛け合ってもらい、それでやっと変更のゴーサインが出る。
仮にゴーサインが出ても、今度は現場の責任者が素直に応じてくれればいいが、人は変更を嫌がるものだから、なんだかんだと理由を付けて即実行してくれないかも分からない。そうなればさらに時間がかかる。これではタイムリー性を争う商品は開発できないし、他者に先駆けることもできなくなる。
大手メーカーが正規軍、師団だとすれば、アイリスオーヤマやベンチャー企業はゲリラ、小隊だろう。すき間を狙い、小回りがきき、即座に対応するからこそ勝てる。だが、組織が少し大きくなると、ともすれば正規軍、大部隊の真似をして組織が硬直化してくる。伸び盛りの企業が失速するのはこのためだ。
その点、アイリスオーヤマはいまだ「ゲリラ」的組織形態を維持しているようだ。もし、現場の責任者に権限がなければ、生産ラインを変更するという重要な決定は上司の判断を待たなければならないし、現場主義を標榜しながら責任も一緒に委譲する(取らせる)なら、現場はその場での決断を避け、やはり上司の決断を仰ぐだろう。でなければ、失敗した時に責任を取らせられる。それは誰しも避けたいだろうから。
現場主義、現場に権限というのは言うほど容易くはない。権限は移譲しても責任は移譲しない体制がきちんと出来上がってなければ機能しないが、アイリスオーヤマの場合はそうした体制が出来ているということだ。
(2)に続く
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