パソコンの利用は1回45分まで
他にも他社から見ればビックリするようなことが同社にある。社内にパソコンがないのだ。デスクトップパソコンはもちろんのこと、ノートパソコンも机の上に置かれてない。当然、会社から社員にパソコンの支給などはない。
といっても、パソコンが全くないわけではない。共用パソコンスペースに行けば、パソコンが置いてある。ただし、利用は1回45分以内と決められているが。
いまどきビジネスホテルでさえインターネット接続は部屋に完備しているところが多い。ましてや企業で、インターネット接続を含むパソコン利用に時間制限を設けているところは珍しいだろう。なぜ、と思ってしまうが、もちろんそれには明確な理由がある。
ところで、多くの企業でパソコンはどのように利用されているのだろう。
1.事務作業の効率化
2.インターネット(電子メール、ホームページ、SNSの閲覧等)
大きく分けるとこの2つぐらいだろう。
回線速度が遅かったり、回線利用料が定額でなかった時代と異なり、いまはインターネットを利用していてもいなくても回線には常時接続が一般的だろう。そうなると、ついメールを見たり、FacebookなどのSNSやブログ、ホームページ(HP)を覗いてしまう。なかにはエッチ系のHPを仕事中に見ている者も結構いるという調査データもある。これでは仕事をしているのか遊んでいるのか分からない。
最近は社内パソコンのログを取る(接続先が分かる)企業もあるが、中小企業でそこまでするところはないだろう。ITに詳しくないトップは社員がパソコンに向かっていれば仕事をしていると思っているかもしれないが、社員の方が1枚上手を行っているようだ。
アイリスオーヤマの戦略は大手企業のすき間商品を開発する「ゲリラ戦」だから、大手企業の格好よさだけを真似てTV会議を導入したり、タブレット端末を導入し、すでにオープンになっている情報をインターネット上で収集して、自社の戦略を立てたりは決してしない。
同社が重視しているのは現場から上がってくる情報で、それはユーザーと直接接し、ユーザーの商品に対する不満を聞き、それを徹底的に分析することから出てくるのだ。
パソコンを操作してメールやHPを見る時間があれば、新商品のアイデアを考えたり、ミーティングに時間を使えというわけだ。
かくして、毎週開かれる商品企画提案会議には毎回70件を超える提案がなされ、そこから新商品として販売される数は年間1000点を超えている。これこそが同社躍進の秘訣である。
ITに頼り、TV会議を行い、自社の営業所、工場回りすらしない企業はアイリスオーヤマのやり方を少しは見習うべきだろう。「ヒントは現場にある」ということを忘れるなかれ。
会議は一方的な報告会ではない。参加者が意見を出し合い、他人の意見に触発され、新しいアイデアや工夫が生まれる。一方的な報告ではなにも生まれない。そういう会議なら短ければ短いほどいいだろう。
因みにアイリスオーヤマの商品企画提案会議は朝10時に始まり夜7時までぶっ通しで行われることもあるというから徹底している。
ユーザーの声を反映させる仕組み
同社の躍進を支えているのは「徹底した現場主義」と、すき間を狙った商品企画なのは間違いないが、商品企画の元になっているのはユーザーの声だ。そして、現場の声を上げているのがSAS(Sales Aid Staff=セールス・エイド・スタッフ)と呼ばれる人達である。彼女達の仕事場はホームセンターの売り場である。要はホームセンターの売り場で販売の手助けをするスタッフだ。
同社は全国のホームセンターの内、約8000店舗にSASを無料で派遣している。目的は自社商品の売り上げを伸ばすことだが、自社商品だけを販売しているわけではない。店舗スタッフの一員としてお客様の相談にものるわけで、自社商品のみを強引に勧めるようなやり方はしない。お客様の質問に答え、丁寧に商品の利点を説明するから、結果としてアイリスオーヤマの商品が売れていくというわけだ。
実はSASには売り場での販売支援のほかに、ある部分ではそれ以上に重要な仕事がある。それはお客様の声を全て会社に報告することだ。
例えば、どんな商品に対する質問が多かったとか、こんな機能があればいい、逆にこの機能はほとんど使わない、などといった商品に対する不満や要望などを細かく報告する。
そして、こうしたユーザーの声を商品企画に反映させるから、同社の商品は売れているのである。
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