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専門性と総合力を充実させたローファーム(1)


今後、法律事務所は二極化する

 −−昨秋、法律事務所名を以前の萬年・山口法律事務所から萬年総合法律事務所に変更されましたが、事務所名変更に込められた意味は?
 萬年 今後、法律事務所は個人事務所とローファームに二極化していく。ぼくは数年前からローファームを作りたいと思っていたんですよ。

 −−なぜ二極化すると?
 萬年 企業は顧問弁護士が一刻を争って対応できなければ切るわけです。ところが、個人事務所だとそういう動きに対応できない。というのは、ぼくが一人でやっている時に顧問会社から二度クレームが来たことがあった。その時にこう言われた。「君は優秀だ。ただし、欠点は忙しすぎることだ」と。その時、明日、長崎に来てくれと言われたんだが、その日、福岡の法廷で5件入っているから行けない。そう言うと、では若い弁護士を紹介してくれと言われた。それで、これはいかんと思って、イソ弁を入れ始めたんです。
 もう一つの理由は当時3歳の娘ですよ。ぼくは365日仕事をしていたから、休みの日でも事務所に行く。でも休みの日はラフな格好で行くから娘にも分かるんですね、今日は休みだと。だから出掛けようとすると、遊んでくれと娘が泣き叫ぶんですよ。でも依頼者との約束があるから、それを振り切ってぼくは仕事に行く。でも、依頼者と話をしていても娘の声が耳の奥で聞こえるような気がする。それで、打ち合わせが終わって急いで帰ると、娘が喜色満面で抱き付いてくるわけです。娘は恋人以上だから。この2つの理由でぼくはイソ弁を入れ始めた。
 それと、ぼくは企業再生とか色々と開拓してきたが、そうしたノウハウを伝承させない手はないだろう、と。だから若い連中に、戦略戦術は俺が決めるけど、実務はお前達がやれ、と。物の本を読んでも違うよ、現場は、と。それでガンガンやらせている。皆一通りやらせる。
 <注>イソ弁とは雇われている弁護士のことで、居候(いそうろう)弁護士の略。最近では「アソシエイト」とも呼ばれる。

パートナー制を導入

 −−法律事務所の名前を萬年総合法律事務所に変更されたのは昨年9月でしたね。
 萬年 ぼくは65歳までになんとかしたいと思っていたんです。というのは親父が63歳で亡くなった。もう一つは、尊敬する弁護士2人が65歳で亡くなった。ぼくは早死にするんではないかという予感があるから、まだ元気な内にローファームの基礎だけは作っておきたい。

−−単に名称を変更されただけでなく、組織形態も変更されたようですね。弁護士数名をパートナーにされたと案内文書にも紹介されていましたが、パートナーというのは一般会社でいえば取締役ですか、それとも共同経営者?
 萬年 ひと言で言えば共同経営者。ただ、パートナー制にもいくつかのパターンがあり、全収入から経費を差し引いたものを比率で配分するパターン、あるいは固定給という形で支給するパターンがある。
 うちの事務所の場合、各自が稼いだ収入は各自が自分で取り、固定経費は負担率を決め、それを各自が比率に応じて負担するやり方。昨年弁護士3人をパートナーにしたが、彼らはまだ子供が小さいし、今後、家を建てることもあるだろう。だから君達は金儲けしろと。いままで給料制だったのがパートナーになった途端に収入が不安定になるといかんから。給料分の稼ぎがなかったらその分俺が貸す。その代わり儲かったら返せと言っている。

−−このシステムは外国でも導入されていますか。それとも萬年総合法律事務所独特のもの?
 萬年 うち独特のもの。最初、萬年・山口法律事務所にした時は9対1の経費負担率。お互いに相手の売り上げは知らないわけです。いまは経費負担率が最も少ないパートナーで3%。最大負担がぼくの85%。
 −−これでは結局、ボスの萬年さんの負担ばかりが大きくて、他の弁護士を雇っているのと大して変わらないという気がしますが。
 萬年 だから、その代わりにぼくの顧問先の仕事の一部を手伝ってもらうことにした。とはいっても、ぼくの顧問先の相談に乗っても、それが自分の収入に全く反映されないので、いくら将来返ってくるといっても嫌だろうから、ぼくの仕事(顧問先の相談に乗る仕事)を手伝ってもらった分を経費負担率と同じ比率でぼくの顧問料から彼らに支払うことにしている。その中で相性のいい顧問会社が出て来るから、それをじっと見ていて、この顧問会社は彼、彼女に将来譲った方がいいだろうと担当を決めていくわけです。

 
−−それにしても萬年個人の負担が随分大きいような気がしますが。
 萬年 だからボスは欲を捨てろと言っているわけです。それでないとできない。だけど、俺の老後は面倒を見てくれよと言っている。

 
−−老後の面倒ということは、例えば事務所から年金のようなものをもらうということですか。
 萬年 そういうことです。

 
−−ローファームとは多数の弁護士を抱え、専門別に組織化された大規模法律事務所という意味で、萬年さんがローファームを作りたいといったのはそういうことですね。しかも扱う案件は幅広くと。だから総合法律事務所という名称にしたと。
  萬年 そう。各人、各パートナーにスペシャリストになってくれと言っている。
 例えば原弁護士は昔から知財関係をやりたいと言っていたから知財部長にした。彼女がうちの事務所に来た頃は1年に2件ほどしかなかった知財関係の相談が、いまは毎月来ている。だから原弁護士をヘッドにし、その下に若い弁護士を付け、弁理士とも連携してチームを作っている。
 また、ある弁護士には企業再生をやらしているし、税金関係もやっているから、そのスペシャリストになれ、と言っている。
 このように最初の段階では広く浅くやらせる。その中でこの道を究めたい、この分野が好きとか嫌いというのが出てくる。とにかく最初の内は食わず嫌いはするな、と言っている。だから事件の配転も幅広くやらせている。
                                                    (続く)