曖昧になっていく内界と外界、境界の関係について(5)
〜内界の膨張を止めよ


内界の膨張を止めよ

 次は視野をもう少し広げて世界の情勢を見てみよう。アメリカ・トランプ大統領の政治をメディアは「内向き」と評する論調が多いが、「内向き」と言うより「内界の拡大」という方が正確だろう。内を向いているのではなく、内の論理を強調しているわけである。
 内の論理を強調しようとすれば、内と外との境界を明確にする必要がある。でなければ外に居る者に侵入していると知らせることも警告することもできない。
 この境界を目に見える物理的な形で拵えようとしているのがメキシコとの国境沿いにトランプ米大統領が建設しつつある「壁」であり、これほど明確に内界と外界の境界を指し示したものはない。

 問題は今後、内界と外界の関係がどう変化していくのかである。かつて内界を外に拡大させていた英米は外への拡大ではなく、内界の明確化に動いている。EUは内界と外界を分けている境界の曖昧化を進めてきたが、イギリスはEU離脱(ブレグジット)という逆の方向、内界の強化に向けて動き出そうとしている。

 こうした動きと反対なのが中国で、習近平は内界の拡大を強固に押し進めている。しかし、内界の外への移動、拡大は当然のごとく外界との摩擦を生む。その先に待っているのは拡大した内界(帝国)の崩壊である。
 内界が拡大を続けるかどうかは内界内の経済力で決まるのは個人も集団、国も同じだ。経済力が強さの支えであり、帝国化は強大な軍事力と経済力によって成り立つが、経済力なくしては軍事力を支えられないので、詰まるところ帝国化を支えていくのは経済力ということになる。

 アメリカ帝国が崩壊したのはアメリカの経済力が衰退したからだが、今、しきりに帝国化を進めている習近平の中華帝国はどうなるだろうか。
 すでに自国の経済力は停滞から衰退に向かう兆しが随所に見えている。となると結果は見えている。習近平はそうなる前に内界の拡大に歯止めをかけるか、それとも崩壊するまでやめないか。

 ここ数年、私の最大の関心事は「我々はどこへ行くのか」「どこに向かっているのか」だった。そして様々な角度からそのことにアプローチしてきたつもりだし、今後も折に触れアプローチしていきたいと考えている。
 だが、私はオプティミスト(楽観主義者)ではない。わずかな光らしきものを見つけて、それを針小棒大に、希望を振り撒く言葉で書き連ねても現実は何も変わりはしない。それよりは現実を真摯に見つめ、認めることの方が重要だろうと考えている。
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