7.焼酎に比べ、日本酒が不人気な理由
焼酎ブームももう終わりだが、その前に日本酒ブームがあったのをご存知だろうか。いまの焼酎と同じで、プレミアム付きで売られた日本酒銘柄もあった。プレミアム付きと言われても醸造メーカーが儲かるわけではなく、儲けるのは流通会社だけで、そのツケを払うのは消費者とメーカーだ。
消費者は不当に高い価格で買うことで、メーカーはブーム終盤に宴のあとという形で。それでも宴があったのならまだ多少なりとも納得できるかもしれないが、宴も経験してないのに、その後だけが突然やってくるのではたまらないだろう。
小さなメーカーほどブームの時は気を引き締めなければならない。少しでも気を緩めると、ブームが去った後に谷の深さが3倍になる。
ところで日本酒と焼酎、ブームはどちらが長かっただろうか。正確に調べてないのでなんともいえないが、日本酒ブームのほうが短かったような気がする。
それにしても驚いたのは焼酎が全国でブームになったことだ。焼酎は地域限定商品といってもいいぐらいで、消費量は九州、中でも南九州が圧倒的な量を占めていた。越すに越されぬ田原坂で、北部九州での消費をいかに増やすか、その次は関門海峡をいかに超えるかといったことが長い間の課題だった。「いいちこ」が関ヶ原を制して首都圏で販売量を急速に伸ばした頃から、「九州の酒」だった焼酎が徐々に広まりだし、いまや全国どこでも焼酎が飲まれているから驚く。
対して日本酒は最初から全国区である。にもかかわらず、なぜ焼酎ほど飲まれないのか。
まず価格の安さがある。一時期に比べ焼酎の価格が上がったとはいえ、日本酒に比べれば、まだ焼酎の方に割安感がある。
割安感は最初購入する価格だけでなく結果的に。
これはウィスキーと通じる部分があるが、焼酎は自分の好みの比率で割って飲むからだ。
対して日本酒はそのままでしか飲めない。これはワインと似ている。
つまり日本酒の割高感が不人気につながっている点があるのは否定できない。
8.選択肢の少なさが一因にも
日本酒は単品メニューの店と同じで飲み方のバリエーションが少ない。燗酒か冷や(常温も含め)ぐらいしかない。しかも度数は決まっている。焼酎ですら定番の25度に対し20度も出ている時代だが、日本酒は15度のみ。焼酎のようにお湯や水で割り、度数を自由に変えて飲むこともできない。氷を入れて飲むロックでさえ、通と称する保守層からは「邪道」な飲み方と否定されるぐらいだから。
そもそも日本酒がよく飲まれたのは他のアルコール飲料があまりなかった時代である。ところがいま競合飲料は市場に溢れている。しかも若い世代は低アルコール飲料志向だ。焼酎が受け入れられたのも酎ハイなど他の飲料で割り、アルコール度数が低くなっていることにもある。
結局、日本酒は造る側も飲む側も非常に少ない選択肢の中に閉じ込められており、さらに伝統でがんじがらめになっている。まさに自縄自縛で、この状態から脱しない限り日本酒の販路は広がらないし、産業としては衰退していくしかないだろう。
9.活路をどこに求めるべきか
度数の幅がなく、飲み方も限られているアルコール飲料で即座に思い浮かべるのはワインだろう。日本酒とフランス産ワインは取り巻く環境もよく似ている。
詳述は避けるが、ワイン用ぶどうが各地で作られるようになると、安いワインが出回りだし、本場フランス産ワインは一時期苦境に立たされた。
日本酒も韓国やベトナムで一時造られたが、国内販売で失敗した。これは販売戦略を含めいくつかの戦略が失敗したためで、それらの失敗を正しさえすればビジネスとして成功する余地は十分ある。
国外生産清酒が失敗したのは市場を日本国内に求めた点が1つ。もう1点は飲料業界外の異業種からの参入だったことが大きい。異業種だから失敗したのではなく、販売戦略の失敗である。要は国内流通販路をつかむことが出来なかったのだ。
例えば日本酒と清酒という名称表記の問題。日本の消費者が国内生産酒に絶対的なこだわりを持っているとは思えないが、そうしたこだわりを打ち破るだけの説得力、訴求力を提示出来なかった点が大きい。
新商品を市場に投入する場合、消費者への説得力・訴求力は非常に重要である。なぜか。人は変化を嫌うからだ。それは慣れ親しんだものへの愛着、安心感があるからだ。それ故、新商品は安心感をいかに与えられるかという点がまず問題になる。
異業種からの参入(多角化も含め)で問題になるのは取り組み姿勢だ。力の入れ方が中途半端だったり、粘りに欠ける場合があり、結果失敗することが多々ある。既存業界にない新しい視点、斬新な取り組みでは評価できる点が多いのだが、もうひと踏ん張りに欠け、市場から撤退するとすれば残念だ。
伝統産業、小市場商品が既存市場の中だけで生きていこうとすればジリ貧にならざるを得ない。最後は体力勝負で、体力がある所だけが残る。体力があるといっても、それは同業他社より長生きできる省エネ体力のことで、少人数で細々とやっていける体力のことだ。むしろ手を広げたり華々しくやっている、一見体力がありそうに見える所ほど息切れする。むしろ省エネ経営に徹するべきだろう。
省エネ経営だけでは未来がない、と感じるかもしれない。その場合は市場規模を拡大することを考えるのではなく、小さな市場を他の場所にいくつか創り出していく方法を取るべきだ。結果として数量は増えるが、一つの市場を拡大することと、一つ一つは小さいが、その小さい規模のものを地域を変えていくつか創ることは全く違う。
例えば国外産清酒の場合、日本国内市場ではなく先に海外市場を狙い、然る後に国内市場を狙う方法がある。
次に日本酒。元々小さな醸造メーカーが多く、生産量も限られている。本来は周辺地域の消費者を対象にした地域限定商品である。それが近代化の波に乗って拡大戦略を取った所にそもそも問題がある。大手メーカーを除き、小市場に戻すべきだ。市場を限定すると言った方が分かりやすいかもしれない。
市場のセグメントである。自社の商品内容に合ったコア消費者を狙い、それ以外は思い切って捨てることだ。そうすると売り上げは少なくても利益率のいい会社になる。
既存市場以外を狙う方法もある。というとすぐ、いままで酒を飲まなかった女性層などを狙うという声が上がりそうだが、そうではなく地域を変えるのである。日本酒と似たような酒類を飲んでいる国、例えばワインを飲む習慣があるフランスなどに新しい酒としての日本酒市場を創り出すのだ。
ボトルも1升瓶はやめワインボトルのような感じにすべきだろう。食前酒、食中酒というのも明確に打ち出した方がいいかもしれない。
要は商品コンセプトを明確にし、ターゲットを限定して、そこに「だけ」届けるのである。これは新たな文化を創造することであり、それなくしては成功しないだろうが。
問題は日本人の人真似である。他社と同じことをすぐやりたがる。そのため小市場がすぐ膨張し始め、バブルが弾ける。
以上、日本酒に関係して色々書いてきたが、日本酒の部分を中小零細企業とその製品に置き換えて呼んでいただければ幸いである。
最後に私的なことを一つ。毎晩、日本酒、焼酎を横にチビチビやりながら原稿を書いている。休肝日を作らなければと反省する日々だが、酒量は増えるばかり。日本酒は純米酒しか飲まないが、好んでよく飲むのは皇国晴酒造(富山県黒部)の純米吟醸酒・幻の瀧。コストパフォーマンスは高いと思う。
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