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セブン−イレブン鈴木会長引退会見の違和感(2)
世襲画策を疑われた背景


 在任期間の長さを問題にするなら鈴木会長の在任期間はどうだろう。鈴木氏がセブンイレブン社長に就任したのが1978年、同会長には1992年に就任しているから、社長時代から考えれば37年余り。会長時代から数えても23年余りトップとして君臨しているわけで、自らの在任期間を問題にしないのは明らかに片手落ちだ。
 鈴木氏はオーナー経営者ではない。にもかかわらずこの在任期間は問題だろう。それとも業績を上げてきた実力者だから許されるのか。もし、そうだとすれば井阪氏の場合にも同じ判断基準が適用されなければならない。

 こう見てくると、鈴木氏が井阪氏に退任を迫る根拠が非常にあやふやなことに気付く。仮に「君は7年もセブンイレブンの社長を務めてきたから、ここらで後進に道を譲り給え。私も長年、会長職に留まり過ぎたので、この際退任する」とでも言うならば、退任が遅すぎたきらいはあるが、それでもまだ筋が多少通る。
 だが、そういう流れでもなかったようだ。とすれば本当の理由は何なのか。

多弁は真の理由を覆い隠す

 鈴木氏の引退会見が異常なのは既述したように古参幹部に援護射撃を頼んだことと同時に、多弁すぎることだ。むしろ女々し過ぎるほどで、くどくどと経緯を事細かに話している。そして話せば話すほど、なぜ、井阪氏を辞めさせることにそこまでこだわるのか、もっと別の理由があったのではないかという疑念を生じさせる。
 今回の引退会見を見聞きした人に、そのような疑念を生じさせたこと自体がすでに失敗であり、鈴木氏を名経営者という名声から遠ざけることになるだろう。

 それにしても話の内容がくどい。まるで自身の方が引退を迫られたような感じを受ける。
 くどいのは話だけでなく、井阪氏に退任を迫ったやり方にもくどさというか、執拗さを感じる。セブンイレブンとは直接関係ない井阪氏の父親にまでアプローチし、息子に辞めるよう説得を頼んでいるのだから尋常ではない。

世襲画策を疑われた背景

 鈴木氏の会見で気になる箇所、奇異に映った箇所がいくつかあった。一つは「お恥ずかしくて申し上げられないけれど、獅子身中の虫がおりまして、色々なことを外部に漏らしていたのは事実です」と語った部分だ。
 「獅子身中の虫」って何? 井阪氏解任の件を創業者であり大株主の伊藤雅俊名誉会長に連絡した人物のことだろうか。「お恥ずかしくて申し上げられない」なら喋らなければいいと思うが、なにかよほど個人的感情があったに違いない。それにしても、この一言は全くの余分。この一言で過去の名声を自ら地に落とした。

 今回の井阪氏辞任要求の背景に、鈴木氏次男への世襲画策があった−−そう勘ぐる向きは結構多いようだ。実際、株主である米投資ファンドのサード・ポイントは3月末に「人事案は鈴木氏が次男康弘氏(51)を後継にするためだ」と批判する内容の書面をセブン&アイ・ホールディングス(HD)に送っている。
 これに対し鈴木氏は引退会見の席上、記者の質問に対し次のように述べている。
「何で息子の話が出てくるのか分かりません。社内でも飛び交っていると聞きまして、ビックリ仰天なんですよ。そんなことを言ったことはありませんし、息子もそんなことを考えたことはないと言っていますし、ましてやセブンイレブンに直接タッチしたことがありません。技術屋ですから、そんなことは考えていません。それなのに、まことしやかに社内で言われているのは、いかに私の不徳の致すことかと思っています」
 この言葉を額面通りに受け取る人は本人以外にいないのではないか。なぜなら、この噂は1年前から囁かれているからだ。火のないところに煙は立たず、と言われるように、これを根も葉もない噂と一笑に付すには少し無理があるかもしれない。
 そこで鈴木氏の次男、康弘氏のセブンイレブングループ入社前後の経歴を見てみよう。
 1999年8月、書籍のインターネット通販会社イー・ショッピング・ブックスを設立し社長に就任。
 2009年12月、セブン&アイHD傘下に入り、セブンネットショッピングに社名変更。
 14年3月、セブン&アイHDの中間持ち株会社セブン&アイ・ネットメディアがセブンネットを吸収合併。康弘氏、社長就任。

 企業動向に詳しい読者の中にはこの段階で「おやっ」と思われるに違いない。そう、吸収した側ではなく、吸収された側の社長が吸収合併されてできた新会社の社長に就任したのである。
 一般的には吸収した側が社長に就任することが多い。ただ、今回のようなパターンもないわけではない。ただ、超低空飛行を続けていた会社の社長が新会社の社長に就任する例はないか、あっても極稀だろう。
 業績が悪化している会社のトップを新会社のトップに据えて指揮を任せてうまくいくと考えるのはよほどのお人好ししかいないだろうから。そういう意味では当時のセブン&アイ・ネットメディア、あるいはHDはよほどのお人好しだったのだろう。でなければ、なにか遠慮しなければならない事情でもあったのだろうか。
                                               (3)に続く



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