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TPPを考える場合に重要な視点(2)
〜米韓FTAの危険な中身


3.アメリカの狙いはどの国か

 アジアで成長著しい国はどこか。誰もが思い付くのは中国だろう。その次が韓国、ベトナム、日本だ。韓国はアメリカとの間で2国間自由貿易協定(FTA)を結ぼうとしている。10月13日、アメリカ議会は法案を可決したが、韓国議会でも法案がすんなり可決するかどうかはまだ予断を許さない。
 まあ、その点は置くとして、韓国がTPPに参加する可能性は低い。韓国の戦略は各国との間でFTAを結ぶことに置かれており、いまさらTPPに参加してもそれほどメリットがあるとは思えないからだ。

 では中国はどうだろう。もし、中国がTPPに参加するとなるとTPPの存在意義が大きく変わってくる。そうなれば韓国も参加するだろうし、日本も黙殺することはできないだろう。
 しかし、現状で中国はTPPに全く参加する気はなさそうだ。となると、「アジアの成長を取り込む」といっても、それは実体がないお題目に過ぎないということになる。成長著しい中国、インド、さらには韓国も入っていないのだから。

 こう見てくると、アメリカの狙いは日本市場しかないことに気付く。
再度言う。アメリカが世界に輸出できるものは農産物と金融なのだ。特に農産物の輸出は第2次大戦後一貫したアメリカの戦略である。
 この戦略に乗せられ、自国農業を放棄し、アメリカから小麦の輸入に頼った国が、先のバイオ燃料ブームの時、輸入小麦が高騰し国民が窮した例もある。
 食料自給率のダウンは外国に食料価格決定権、さらにいえば生存権まで握られることであり、危険極まりない。すでに日本の食料自給率は十分下がっている。

 ついでに言えば、日本の全品目平均関税率は韓国、アメリカより低いし、農産物に限っても韓国やEUより低いのだ。

4.ドル安・輸出倍増がアメリカの政策

 経済低迷下のアメリカの政策は輸出倍増である。輸出に有利なのは自国通貨安、つまりアメリカにとってはドル安が有利なのだ。
 日本の円高が解消しない理由の一つがここにある。アメリカにとってはその方が都合がいいから円高解消(ドル安解消)には動きたくないわけだし、動いてもいない。
 景気が低迷しているEUも同じで、ユーロ安政策を取っている。韓国もウォン安だ。結果、ひとり日本のみが円高であり、この傾向はしばらく解消されないだろう。

 アメリカが日本にTPP参加を強く迫る理由はここにある。なんとしても日本向けの輸出を増やしたいのだ。でないとオバマ大統領の再選も危うくなる。すでにアメリカでは若者の失業が大問題になり、ニューヨークで暴動が起きかけている。

5.米韓FTAの危険な中身

 韓国がアメリカと2国間自由貿易協定(FTA)を最終的に締結するかどうかはまだ不確定要素があるが、ここでその中身をちょっと見てみよう。
 これを見れば自由貿易協定は実は強国による「不自由」貿易協定だということが分かる。
 危険な問題点を以下に列挙する。
 ・サービス市場は全面開放。例外的に禁止する品目だけを明記する。
 ・牛肉はいかなる場合であっても輸入禁止処置を行わない。
 ・韓国が他の国とFTAを結んだら、そのFTAの有利な条件を米国にも与える。
 ・自動車分野で韓国が協定に違反した場合、または米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断した場合、米国の自動車輸入関税2.5%撤廃を無効にする。
 ・韓国に投資した企業が韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できる。
 ・米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても、米国政府が米国企業の代わりに国際機関に対して韓国を提訴できる。
 ・韓国が規制の必要性を立証できない場合は市場開放の追加措置を取る必要が生じる。
 ・米国企業・米国人に対しては韓国の法律より米国の法律を優先適用する。
 ・韓国は米国に知的財産権の管理を委託する。
 ・公企業を民営化する。

 驚くべき内容である。よくもまあ、こんな内容があるにもかかわらずアメリカとの間で自由貿易協定を結ぶものだと思う。
 いかなる場合でも牛肉の輸入禁止処置を行わないとは、仮にBSE(牛海綿状脳症)が発生しても牛肉の輸入禁止処置を取れないということである。
 韓国はアメリカへの車輸出を増やしたいし、FTA締結で関税率が下がるから、より安くアメリカで韓国車を販売できると考えているだろうが、「米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断」すれば、撤廃した自動車輸入関税を元に戻し、再び2.5%の関税をかけることができるのだ。
 要はアメリカの自動車産業に打撃を与えない範囲内で輸入を認めるということであり、これでもって韓国車がアメリカ国内で圧倒的に有利に立ったとするのは間違いだろう。
 それでも「2.5%の関税差は大きい」と考える日本の自動車メーカーは米国での現地生産をさらに増やそうとするかもしれない。そうなればアメリカ国内の労働者雇用数が増え、アメリカ経済に貢献することになる。どっちに転んでもアメリカに損はないのだ。

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