最近、講演する際によく触れていることがある。
それは物事を見たり判断する場合の「視点をどこに置くか」ということと、「視点を変える」ということである。
座標軸が定まってないと、その場その時で意見、見方がコロコロ変わる。日常生活的なことならまだいいが、会社の経営ともなるとあまり意見や見方がコロコロ変わるのは考えものである。
その一方で、視点を変えるということが重要である。視点を変えることでそれまで見えなかったことが見えてくるからだ。
景気が悪くなるとどうしても目先のことに目が行き、長期的な視野、戦略的な視点で物事を捉えにくくなる。近年そうした傾向が多く見られる。
そこで、実際にあった例から戦略的視点について考えてみたい。
ケース1:コストダウンの要請にどう対応するか。
岡山のA社社長からある日電話がかかってきた。
鹿児島のある企業と仕事をしたいと思っているが先方の示した金額はメチャクチャで、とても受けられるものではない。ただ当社のコルゲート(波形)加工技術を持ってすれば、先方の要望するものは作れる。どうしたらいいだろうか、というのが電話の内容はだった。
話を聞きながら次の2点を感じた。
1.単価が非常に厳しい。先方の言い値で受ければ赤字受注になり、それはしたくない。
しかし、環境が厳しいからできれば仕事をしたい。相手は半導体関連の一流企業だから、そこと取り引きすれば後々仕事が増えると思う。
2。技術的にはクリアできるし、他社より短納期で、いい仕事ができると思う。
結局、仕事はしたいが、赤字受注はしたくない、という狭間で揺れているのだ。
よくある話だ。赤字になる仕事まではしたくない、というのはどこも同じだ。
よく聞いていると、すでに断ることに決めているようだった。それならなにも私に電話をかけてきて意見を求めなくてもいいように思えたが、自分の決断が正しいと誰かに言ってもらいたかったのだろう。
そこで私は次のようにアドバイスした。
「チャレンジすべきです」と。
もちろん、赤字でも仕事をしろと言っているわけではない。
ただ、コストが合わないからやめるではあまりにも能がないというか、それは仕事ではないと感じたからだ。
断るのは最後でいい。
その前に、なぜA社ではその金額でできないのか、どうすればできるのか、何が問題なのか、どこに問題があるのか、を考えるべきだろう。
つまり、自社のコスト体質を見直すべきで、そのいい機会にもなると考えたからだ。
特にA社の場合、仕事の段取り、従業員の使い方に改善の余地は多いと思ったから。
ただし、その前にしなければいけないことが1つある。
「先方と再交渉することです」と念を押した。
重要なのは再交渉の考え方だ。金額はなんとかなりませんか、というのは交渉でもなんでもない。
目的は先方の真意を探ること。本当に譲れないのは品質か、それとも価格なのかを探ることだ。
「当社の技術をもってすれば、ここまでの品質のものが作れます。もちろん安く作れといわれればできないことはありませんが、ここまでの品質のものはどこも作れないでしょう。コストダウン優先のいい加減なものを作ったりすれば耐久性に問題が出ると思いますし、そうなるとかえって結果的にコストアップになるのではないでしょうか」
こういう話をぶつけていけば、先方がどこを絶対条件にしているかが分かってくるはずだ。その結果、品質が絶対条件と分かれば、金額面では妥協しなくてもすむ、あるいは多少のダウンですむだろうし、逆に金額が絶対条件だったなら、なにがなんでもその金額でできるようにしなければいけない。
仮に後者の場合でもチャレンジしてマイナスはないだろう。
よしんば受注できなくても、一度そこまでコストダウンできれば、他社に営業に行った時、大きな武器になるはずだ。
これが私のアドバイスだったが、その後A社が再交渉したか、結果がどうなったかは連絡がないので分からない。
(2に続く)
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