岡山市に中原鉄工株式会社というユニークな企業がある。
何がユニークかというと、まず技術がユニーク。とにかく他社が敬遠したがるような難しい仕事をやりたがる。というのは言い過ぎかもしれないが、少なくともそうした仕事にチャレンジしたがる傾向があるし、またそうした難しい加工仕事をこなしてきている。次に経営者(の経歴)がユニークだ。
自慢はバイト(刃物)を作る技術です。
なぜか岡山には社名に「鉄工」と付く会社が多い。仕事内容は大物加工から小物部品加工、精密加工まで千差万別。だから社名を聞いただけではその会社の内容は想像すらできない。これは岡山の特徴(?)ではないかと思っている。というのも、他の地域で「○○鉄工」といえば大物加工をするところが多いからだ。
それはさておき、同社の主要事業は工業用ゴム金型の加工。もう少し具体的にいえばベアリングシール用ゴム金型、自動車エンジンガスケット用ゴム金型の加工、工具鋼・ステンレス鋼・アルミ合金などの小物精密部品の切削加工である。
大量生産品ではなく小ロット、特注品の加工を得意としている典型的な町工場。ただし、ちょっとスマートな町工場である。
近年、部品は小型化、複雑化する傾向にある。その結果、切削加工には精密さが要求される。同社の仕事は「寸法は±10マイクロメートル」のものがほとんどだというからまさに微細加工である。
その一方で、部品の形状が複雑なものが増えている。ということは、加工に時間と高い技術力が必要になる。平たく言えば難しい仕事が増えているということだ。もちろん加工機械も進化している。だが、機械を入れれば出来る仕事はどこでも出来る仕事で、そういう仕事は新興国にとって代わられつつある。
代えられないのは人、技術を身に付けた人、技能者の仕事である。これは長年の勘、人間の五感を研ぎ澄まし、総動員して行う技術。いわゆる職人芸の世界で、同社にはそうした技術者が多くいる。
複雑な形状の部品加工で注目されているものに総形(総型)バイトを使った切削加工がある。
バイトとは刃のことで、総形バイトとは加工対象の形状と加工する刃が同じ形状になっているもののこと。通常、加工対象、いわゆるワークをある形状に加工する場合、バイト(刃)を加工形状に沿って走らせていきながら加工していく。ところが、この方法だと時間がかかり、効率が悪い。そこで加工図と同一の形状・寸法をした刃をワークに押し付けて加工する方法が開発された。
同社ではこの総形バイトによる切削加工を得意としている。この加工法の長所は加工時間の大幅な短縮と、寸法管理を楽に行えることである。
とはいえ、いいことばかりではない。短所もある。いかに作業効率がよくなるとはいえ、精度を要求される難加工であることに変わりはない。つまり求められる結果を出すためには熟練した技術者が必要になる。
もう1つは刃先の耐久性の問題。加工溝が微細だから、当然切削するバイト(刃)の方も平均で100マイクロメートル幅の刃先と微細。そのためワークを2、3個削れば刃先が摩耗してくる。摩耗してくると切削量が微量ながら減る。その分だけバイトをごくわずかだけ前に押し出して調整しなければならない。この微調整を約15分に1回行うのだ。しかも、機械任せではできないので、人間の手で行うという。
因みに微調整をいつするか、どの程度するのか、その判断をどのようにしているのかを、同社の技術者に尋ねると、「長年の勘です」という言葉が返ってきた。まさに職人技である。
「削りかすだとか、熱だとかから、まさに五感で総合的に判断しているわけですが、彼らはそういうことを体で覚えているんですね。この仕事が一応一通りこなせるようになるには3年かかります」と中原成始郎社長。
これだけでもスゴイが、さらに同社がスゴイのは既製の切削刃物を独自に研磨・成形し、バイトまで自社で作っていることだ。
「刃物を作る技術がうちの自慢です」(中原社長)と言うように、同社の技術者は全員コンマ1ミリのバイトをグラインダーで手で研いで作る技術を持っている。
(2)に続く
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