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総形バイトで、複雑な加工形状の切削加工が
得意な中原鉄工(2)


自分の中に4つの軸がある

 技能者集団を率いる中小企業のトップは大体職人タイプか技能者・技術者が多い。当然、中原社長もそうだろうと考えていたら、違った。「ホウガク」出身だと言う。「コウガク」の聞き間違えかと思い、再度尋ねると「法律の法」と言うので驚いた。驚いたのは技術のことにやたら詳しいだけでなく、自分でも切削加工ができると言うからだ。

 大学は東京大学法学部卒業。政治学を専攻し、卒業後は「ジャーナリストになりたかった」というから、ここまでは技術とは無縁だ。しかし、希望した新聞社、通信社に入れなかったから方向を一転し、住友重機械工業(株)に入社した。入社後は精機事業部企画室国際企画室、シンガポール駐在員、プラスチック機械事業部企画、同事業部営業部、同海外営業部と歩いている。ところが、93年に突然退職し、父の経営する中原鉄工(株)に入社。
 「跡を継ぐつもりはなかった」し、父である先代社長も跡継ぎは期待してなかった。1代で会社を清算しても仕方ないと考えていたようで、しばらく「設備投資もストップしていた」らしい。
 入社後、社内を見回した成始郎氏の目に映ったのは小さな町工場の現実だった。
「よくこんなもので仕事をしていたな」と思えるような設備と、腕は一流の職人達。そこでまず「毎年1台ずつ機械を購入」することから始めた。

 一流企業で世界を飛び回っていた文系出身の2代目と、腕は確かだが寡黙な職人達。最初は互いに相手を観察するような目で見ていたであろうことは容易に想像がつく。
「技術も分からない奴が頭だけで物を言うな」
 古くから居る職人程そういう目で見ていたに違いない。大手企業の管理職は指示1つで組織を動かすことができるが、中小零細企業の場合そうはいかない。いくら指示しても、理論が正しくても、その通りに動かない。人が動かないから、組織も動かない。組織的にはおかしいが、それが小組織の現実でもある。理屈以前の問題というやつで、これがやっかいだ。

 「最初は機械加工のことが全く分からず、5年旋盤工をやりました」
職人を動かすには彼らと同じ言語を話し、土壌を共有する必要がある。そのため図書館や本屋に通い、分からないことは徹底的に調べたし、自分で機械を操作し加工もした。
 幸いだったのは先代社長が技術屋で研究熱心だったこと。新しい材料の刃物が出るとすぐ買ってきて、それらを試させていた。そのお陰で職人達も常に新しい技術に触れる機会があったし、自分の経験に固執し、そこから1歩も出ない集団ではなかった。
「新しいものがあればトライしてみろ。絶対なにか違うはずだ。やってみていい成果が出ればそれに替えてみていいんじゃないか、ということは私も常に言っています」
 と中原社長。

 「事務屋だから技術の世界とは無縁だとは思わない」とも言う。それでも理屈と現場の経験の違いを何度も認識させられたようだ。
 例えば切削加工の場合、まず大体形を整える粗加工を経て、それから仕上げ加工できれい仕上げるという段階を踏むが、熱を帯びる前と後では加工サイズが微妙に違ってくる。その差が気にならないような物ならいいが、ミクロンサイズの加工になれば誤差の範囲内に収まらなくなる。当然、加工品に微妙なサイズのバラツキが出てくることになる。理屈では当たり前である。
 誤差を少なくするためには途中で数値を調整する必要があるだろう。では、いつ、どの段階で数値調整をするのか。それは長年の経験と勘で、と言うかも分からない。実際そのような方法で対処している所も多いだろう。

 だが、同社の職人達は一風変わった方法を取っていた。
「決して朝一番から加工しないんです。夕方4時頃から削り始めるんですよ」
 別に午前中遊んでいるわけでも、サボっているわけでもない。朝一番に加工するのと、機械を動かしながら夕方加工するのとではサイズに違いが出ることを知っているのだ。理論や理屈ではなく、身体で知っているから、決して朝から加工しないのだという。そして仕事をやり終えるまで帰らないのだから、まさに職人、技能者集団である。

 こうした技能者集団を率いているのが文系出身の中原成始郎氏だが、「文系、理系、大手企業、零細企業を経験したことで、自分の中に4つの軸があり、それぞれの角度でみられるから面白い」と言う。
 狭く深く、自分達の世界だけを見ていればいい時代がかつてはあった。しかし、いまはそれでは通用しない。いや、生き残っていけない。下請けといえども設計図通りにきちんとした仕事をするだけではダメで、ユーザーのこと、発注者のことを考えたプロとしての提案が必要だ。
 例えば、「この素材はこちらの方がいい、なぜならば」「設計図ではこうなっているが、ここは少し設計変更してもらえないか。そうすると施工が楽になるし、納期も短くなる」というようなことでも提案するとなると、常日頃から色んなことに興味を持ち情報を集めておかなければならない。好奇心も必要だし、勉強熱心でもなければならないだろう。それに加えて複数の角度からモノを見るということが重要になる。
 自身の中に4つの軸を持ちながら、もう1つ新しいことに挑戦している同社だが、それはまた機会があれば触れたい。
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