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ねじれや引き裂き強度に強い四軸織物の
量産機を世界で初めて開発した明大株式会社(1)


明大株式会社
岡山県倉敷市曽原484−1

  岡山にユニークな企業があると聞いて取材に出かけた。社名は明大株式会社。といっても大学の関連会社ではない。大学とは縁もゆかりもないのに、なぜ明大? と思ったら、創業者であり、先代社長の名前が明(あきら)。「明が大きくなる、と付けたようです」と、現社長の小河原通弘氏が笑いながら話してくれた。
 ユニークなのは社名のことではない。この会社が世界で初めて機械製造による四軸織物を実用化したからである。
 従来の織物は縦糸横糸の二軸で構成されているが、これに糸を2本たすき掛けに交差させたのが四軸織物。二軸織物は縦横への引っ張りには強いが斜め方向へ引っ張ると変形する、裂けやすいというのが弱点。それらを克服した四軸織物は各方面から注目され、織物製品はもとよりコンクリートの補強材、スポーツ用品、航空宇宙、自動車産業などあらゆる分野から注文が相次いでいる。
                                (文責・ジャーナリスト栗野 良)
逆転の発想で他社と差別化
少量多品種製造で伸びる


左:小河原一正専務 右:小河原通弘社長 同社の創業は昭和38年。当時、創業地の倉敷は綿帆布の一大産地であり、大量生産が主流の時代。しかし、「資金ゼロから始めた」同社に多大な設備投資をする余裕はなかった。「他社が廃棄するような機械を買ってきて、それを改造して使っていた」と通弘社長は当時を振り返る。そんな同社が生き残る道は他社との差別化しかなかった。「他社では割が合わないと引き受けない100mの注文から受けてきた」。いまでいう少量多品種生産といえば聞こえはいいが、それしか方法がなかったというのが実情だろう。
 人も企業も逆境で鍛えられる−−。同社の歩みを見ていると、この言葉通りのように思える。
 多大な設備投資を必要とする綿帆布の世界ではなく、最初から化学繊維を使った織物、いわゆるハンドバックの生地やテーブルクロス、クッション材などの装飾品、インテリア商品の分野に進出したのも資金不足からだった。
 とにかく来る仕事はどんな仕事でも断らなかった。そのことが嫌が応にも同社の技術を鍛えていったし、常に工夫をする社風を生みだしていった。そして、そのことこそが同社の強みへと変わったのである。

競合他社のネガティブキャンペーンで
逆に売れ出した明大のロックスリング


 その一方でインテリア商品ならではの苦労もあった。商品にシーズン制があるから、仕事に波があったのだ。
「なんとか年中仕事がある資材はないか」
「産業資材は季節性がないから年中仕事がある。その代わり安いけどな」
「あまり人が手を出さない、ちょっと変わった産業資材を探してみたらどうだろう」
 寄ると触るとそんな会話を交わしていたある年の暮れ。忘年会代わりに社内の4人で鍋をつつきながら雑談している時に出たのが「ベルトスリング(釣り下げ用ベルト)」だった。
「ベルトスリングというのが売れてるらしいが、フックに掛ける部分が特許になっていて、そこをなんとかほかの方法でできないかと言ってる」
 ワイヤに比べて軽くて扱いやすいベルトスリングは造船会社や建設会社などで使用する機会が増え、市場は拡大しつつあった。ところが市場は大手メーカー1社のほぼ独占状態。なんとかこの市場に参入したいと考えている商社等は特許を回避する方法で製造してくれるところを探していたのだ。
 この時の「雑談がきっかけ」になり、同社は独自の方法でベルトスリングを開発することに成功。明大初のオリジナル製品、「ロックスリング」の誕生である。
 「ロックスリング」は好評だった。しかし、期待とは裏腹に売れなかった。
評判がいいモノが売れるとは限らないのが世の常だが、そこにもってきて同社の場合、過去、営業とか製品売り込みなどしたこともなく、「いいモノを作っていれば買いに来るという姿勢だった」からよけいである。これではいかんと、商社と同行販売もしたが、「一度使ってみてください」というぐらいがせいぜいだから、お世辞にも営業と呼べるようなものではなかった。
 そんな具合だから3、4年は販売数量も伸びず低迷が続いた。ところが、そのうちにポツポツと注文が相次ぐようになってきた。ただ、注文はほとんど九州からだったので不思議に思い、ある時調べてみると意外なことが分かった。ベルトスリングのトップメーカーが「明大のロックスリングの欠点」と題した文書を九州で販売代理店を集めて開催したスリングの説明会で配布していたのだ。
 ところが、これが打撃になるどころか幸いしたから世の中面白い。「トップメーカーがあそこまで意識する商品だから、一度使ってみよう」と逆に興味を持たせたのだ。その背景には注文しても納期が遅い、価格は高いなど「殿様商売」的な態度が顧客から嫌がられたということもあったようだが。
 いずれにしろ、以来、ロックスリングの売り上げは着実に伸び続け、いまでは同社のメーン商品に育っている。
                                            (2)に続く

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